山小屋と云う所は、昔から伝統的にストーブが置いてある。それも、薪ストーブ。
今は、普通の家屋でもはやりなのだが、山の上は、夏でも寒く、
薪ストーブは欠かせない。
暖を取るだけでなく、調理の為にも、役に立ってきた。
さすがに最近の山小屋の調理は、プロパンガスが主流だが、
それでも薪ストーブの上に大きなヤカンが置かれ、
つねに湯を沸している。
小屋にたどりつき、玄関の扉をあけると、すぐに香ってくるのが、
薪の焼ける匂いだと気づく。
ここで、泊まれる安心感とご飯もたべられる期待がしみつき、
こころ休まる匂いである。
というのが定説だった。
しかし!
「イシマルさん、最近、山小屋の周りの木を採れないんですヨ」
小屋主さんが嘆いている。
条例で、ささやかでも木の伐採ができなくなったと言う。
そうすると、その薪は平地からヘリコプターであげるか、
人間が担ぎ上げなくてはならない。
燃料代としては、破格になってしまう。
それなら、石油燃料の方が、はるかに安い。
とはいえ、薪ストーブの味わいは捨てがたく、えっちらおっちら、
薪を人力で担いで上げているのだとため息をもらしている。
平地に住む家庭にある薪ストーブのほうが、はるかに安上がりという、
逆転現象が生まれている。
その昔に家庭の台所にあった竈がなくなったように、
山小屋から、薪ストーブが無くなる日がくるのかもしれない。
これだけは、ちとさびしい。
登山者に登山口から一人一本の薪を運んで下さい、
とのお願いをしている山小屋すらある。
(ペットボトル一本持ってあがってくださいという山小屋もある)
(石を一個持ってあがって下さいという山もある、大山)