田中邦衛さんに初めてお会いしたのは、40年前、私が27才、くにさんが47才。
田中さんは、みんなから、くにさんと呼ばれていた。
つかこうへい事務所の舞台に、出ていたのだ。
もちろん客演であったのだが、当時有名過ぎる方が、
まだ、世の中的には、知られていない役者たちと共に、
舞台に立つ勇気があった。
くにさんは、つかこうへいの芝居に2作出演している。
《ひもの話し》と《出発(たびだち)》
ひもの話しの再演の時に、私は初めてお会いした。
もの凄いオジサンだと思っていたら、実は47才。
毎日稽古場で、馬鹿話ばかり喋って僕らを笑わせてくれた。
真面目な話しをしたかっただろうが、努めてお馬鹿な話しをしてくれた。
自分を、ぐっと下げてくれたのである。
降りてくれたという言い方が正しいだろうか。
ある日、くにさんが走ろうかと言い出し、稽古前にランニングに出た。
麻布にあった稽古場の周りを小一時間走った。
当時、無茶苦茶元気だった私の走りになんとかついてきた。
考えてみれば、とんでもない体力である。
《北の国から》をまだ始める直前の頃であり、体力づくりは、
当たり前のようにされていた。
クニさんの演技のマネを、みんながする。
ところが、ご本人は、ああいう演技をしているつもりはない。
私が知っている役者の中で、最も二枚目俳優が、
田中邦衛さんだと確信している。
ご自分の中にあるドラマツルギーを表現しようとすると、
あの芝居になってしまう。
くにさんの芝居を目をつぶって、高倉健が喋っていると想像すると、
その二枚目さ加減が理解できる。
「おれ、へただからよぉ~」
何かというと、自分を卑下されていたが、あれは本気だったと思う。
へたな自分をどうやったらいいのか、いつももだえていた様な気がする。
私の中では、くにさんは消えていない。
たぶん私より長生きする。
たぶんではなく確実に長生きする。
また、なにか教えて下さい。
