長野県と山梨県の境に位置する八ヶ岳山麓。その山中に、黒百合ヒュッテという山小屋がある。
歴史は古い。70年になんなんとする。
通年小屋と呼び、一年中営業している。
つまり、極寒の冬も小屋はひらいている。
極寒は終わったが、残雪を踏みたくて訪ねてみた。
標高2400mの高さに位置する小屋。
その先にある、天狗岳の前哨基地でもある。
日本国内で真冬に営業している山小屋は少ない。
しかも、その中で、ピアノを置いてある所は、ほとんどない。
私の知る限り、3つしかない。
「えっ3つもあるの?」という驚きを誘う為に、いま申し上げた。
山小屋とは、テントの発展系の最終形である。
避難小屋が快適になったと思えばよい。
避難小屋に暖房があり、シェフと布団係が働いていると考えよう。
その代償として、料金を払う。
っとここまでなら、ホテルと変わらない。
山小屋の楽しみは、やはり高山で寝泊まりする違和感であろう。
もし山小屋がなければ、こんな所で、一晩過ごせるワケがない。
テントなどの完璧な装備がなければ、一晩で凍死してしまう。
なんせ、春でもマイナスの気候に加え、風ビュービュー。
そんな場所、ビール片手に周囲をほっつき歩き、
夕食ともなれば、ワイン呑みながら、歓談となる。
今は、歓談は、できないが、読書でもいい。
夜はお月さまが出て、トイレに行った帰りに、
満天の星空をながめて、ぼんやりしていられる。
ところが、山小屋の働きはそれだけではない。
言い方を変えると、そこはホテルではない。
その従業員たちは、救難隊でもある。
山道の整備隊でもある。
そして、登山者を癒やしてくれる場所でもある。
だから、ピアノがあったりする。
山小屋にピアノという絵面は、贅沢を通り越して、
豊かなひとときを与えてくれる最高点ではなかろうか。