今から57年前、けんじろう君が10才の時、三波春夫のオリンピック音頭が町に流れ、
10月10日の開会式に東京の調布にある競技場に、
聖火の最終ランナーが走り込んだ。
その様子は、テレビの映像として流れた。
生放送だったと思うのだが、我が家のテレビは白黒。
ランニングの上着を着た、ランナーが最後の階段を登り、
聖火台の前に立った。
トーチの先端で燃える炎は良く見えないが、煙は出ていた。
やがて、聖火台に着火する。
まるでボッと音が聞こえたような気がして、炎があがった。
白黒テレビでは白い煙が揺れているだけなのだが、
いかにも熱そうな大きな炎が青空を焦がそうとしていた。
もちろん空が青く見えた訳ではない。
しかし、10月10日が、《晴れの特異日》に指定されるように、
その日も晴れていた。
白黒テレビの前に座る我が家のある、大分県も晴れていた。
この映像を色の付いたカラーで見るのは、ずっと後のこと。
市川崑監督の映画《東京オリンピック》の中で、
聖火台の炎がオレンジ色に揺らいでいた。
しかし、私の中では、すでに色はついていたのである。
見た事がないモノには色が付かないが、知っているモノ、
知っている現象にはきちんと色があった。
頭の中で、色を付けるらしい。
さらに記憶にも、かってに色をつけるらしく、
その当時のアニメやドラマも、色が付いている。
いや、色のあるモノとないモノがある。
たとえば、日本のアニメは色があるのだが、海外テレビは白黒。
頭は正直だ。
見た事のない海外映像には、色が付けられないとみえる。
だから、テレビ番組《サンダーバード》は白黒だし、
《宇宙家族ロビンソン》も白黒。
とはいえ、57年前の町中に、派手な色はあまりなかった。
原色の服だの家だのが溢れるのは、
その後20年を待たなければならない。
人々の服は、基本白黒だし、家屋は黒い屋根に白い壁。
木目の茶色が殆どだった。
だからだろうか、庭や野原に咲く花が、あまりにも鮮やかだった。
グラジオラスの赤さに心躍った。
ダリアのオレンジにも心が騒いだ。
聖火リレーのトーチは、ゴールド色。
これからさらに数十年経た時、色があせることなく、
人々の心に残っている事を願いたい。
明日もリレーは続く。