5月の風はすがすがしいと言われる。清々しいとも書く。
たしかに爽やかで、窓を開けたくなる。
朝、起きるとまず手をつけるのが、窓の開放。
ガラガラガラガラ
ありとあらゆる窓をあけてゆく。
一斉に風が入り込む。
気持ちがいい。
家の中なのに、大きく深呼吸をする。
そこで、ふと気づく。
この気持ちよさを浴びるのに、
50年前と現在の違いは何だろうか?
《網戸》
今、家の窓と言う窓に、網戸が設置されている。
ハエや蚊をいっさいシャットアウトしている。
その昔、5月ともなると蚊がおおいにその気になり始める季節だった。
子孫繁殖の為に、血気盛んな蚊が、とび回っていた。
そんな時、窓を開放したらどうなる?
餌食となる。
「ああ~きもちがいい~」
と素直に言えただろうか?
少なくとも、晴れわたった日中なら、さほど蚊が襲ってくることはないが、
早朝や夕方ともなれば、虎視眈々、目ギョロギョロの蚊が、
音もなくやってくる。
(音が聞こえるのは夜中だけだ)
「いや、アースレッドが守ってくれる」
「キンチョウがあるでヨ」
駆除の作戦で、風の気持ちよさを享受しようという考えもある。
真夏も真冬も梅雨時も、窓を開け放てない家屋に住む者にとっては、
今しかない5月の薫風は、心を洗う季節である。
その間だけでも、できれば薬に頼りたくない。
野原や山の中にいると分かるが、風がある程度の風速を超えると、
虫は飛ばなくなる。
その風速は、2~3mの気がする。
扇風機の弱ほどの風だ。
5月に吹いている風は、それを超えている。
50年前でも気持ちよさを感じたのは、蚊がいなかったからだ。
襲ってくる夜になる前に、窓を閉める作業を、
生真面目にやっていたからだ。
真面目さがなくなった現代、明け放した窓をうらめしそうに、
網戸に張り付いた蚊に同情している。