栃木県の那須連峰に、那須岳という山はない。三本槍、茶臼岳、朝日岳の総称を那須岳と呼んでいる。
この連峰は、とにかく風が強い事で知られている。
日本海側から吹いてきた風が、
壁のように立ちはだかる那須の山並みにぶつかる。
山道の横の看板にも、《強風注意》の文字がある。
なかでも峠が最も風が強い。
なんたって鞍部になっている所は、ベンチレーション効果で、
風が凝縮され、周りの2倍も3倍も風速があがる。
そんな場所に建っている避難小屋が痛々しい。
ステンレスの大きなクサリで、建物全体をしばりつけ、
吹き飛ばないようにしている。
石垣島の昔の家は、吹き飛ばないように屋根の上に、
石を乗せていたものだが、クサリで縛り付けている家は無かった。
ということは、この峠では、どれほどの風が吹くのだろうか?
私が訪ねた時は、最大で22mほどの風が吹いていた。
歩けるには歩けるが、アッチよろよろ、コッチよろよろである。
これが、30mを超えると、ヨロヨロではすまなくなる。
よもや40mともなると、身体が浮き上がる。
石つぶてが飛んできて、目が開けられなくなる。
こりゃダメだってんで座り込もうものなら、
地面近くは砂が吹きすさび、顔面にビシビシ当り、
傷がついてしまうほどだ。
以前、20mの風の中で座り込んでいたら、
持っていたデジカメの表面の塗料がすべてはぎ取られ、
銀色のカメラに変身した事があった。
《サンドペーパー》とは、ここからきた言葉だと思われる。
これほど強い風に普段ひとは接しないものだから、
峠の強風にであった途端、
「ここでこの風なら、頂上に行ったらどんな風が吹いているのか?」
想像がふくらみ、登山を断念する人たちがいる。
しかし、よく考えてみよう。
鞍部とは風が収縮する場所。
であるならば、頂上のようなとび出した所は、
風が広がる場所と言える。
つまり、頂上は鞍部より風は弱い。
それを知っていれば、風を恐れる必要はない。
(気象が変化しない限り)
「谷から吹きあがってきた鞍部(峠)より風が強い場所はない」

クサリで縛られた峠の避難小屋