那須岳の麓には温泉がいくつもある。立ち寄ろうにもたくさんあり過ぎて、まよい迷い、決めかねない。
そんな時、目の前に現れ訪ねたのが、
《鹿の湯》
那須温泉街の川の中にあった。
500円を払って中に入ると、すぐに脱衣場。
湯気の向こうに、四角い湯船が6つ見える。
まずは一番手前にある湯船につかる。
《41度》
まあまあの普通の風呂で気持ちがいい。
しばらくして次の風呂に移る。
《42度》
急に熱くなった。
あまり長湯はお勧めできないかも。
見回すと、湯気の先にまだまだ湯船が並んでいる。
《43度》
入る時、ゆっくり入った方がいい気がする。
30秒ほどガマンして、出た。
しばらく板の土間で涼む。
木造りの高い天井や明かり窓があり、涼みが気持ちいい。
目をあげると、並びの数字が。
《44度》
「アッチ!」入るなり、思わず声が出た。
時折、山の中の温泉でこのくらいの熱さのお湯があるが、
銭湯系では、ありえない熱さと言えよう。
身体にいいのか不安がよぎる。
すぐに飛び出て板の土間にべったり座り込む。
ふと回りを見回すと、これまでの温度の湯船の周りには、
数人のオジサンたちがいて、ただ黙ってうなだれている。
しかし、問題はここから先だ。
誰もいない。
禁断の場所であるかのように、触らずの地域に、
湯船が設置してある。
《46度》
ここまで一度づつ上昇させていたのに、いきなり2度あがった。
試しに、足先をチョコんとつけてみた。
「これは、いかん!」
湯船の壁に貼り紙がある。
「湯船に入る時は、先に入っている人に声掛けをして、
お湯を激しく揺らさないようにしましょう」
あんですと?
昔から銭湯などでは、熱い風呂に入っていると、
「おい、かき回すな!熱いじゃねぇか!」
おっちゃんに小言を言われたものだ。
つまり、あまりにも熱い湯は動かすと更に熱く感じるという奴。
とはいえ、声がけしようにも誰も入っていない。
そんなに熱いのだろうか?
ここで、入らねば男がすたるとばかり、心頭滅却して、
ソロリと足先から滑り込ませる。
痛い。
熱いのではなくハチに刺されたような錯覚をする。
ええいままよ・・・ズブリと身体を沈めた。
うぅぅぅぅぅ・・・・・
たぶん10秒ほどだったと思うが、
10分にも感じる熱が襲ってきて、とび出した。
いや、とび出す時も、ソロ~リと出た。
そうしないと湯が動いて熱いのだ。
板の上にドテっとケツをおろした所の目の前に、
さらなる2度熱くした湯があった。
《48度》
猫のように手を伸ばして、ひとさし指をチョコんとつけてみた。
ゆで卵を茹でている時に、
卵を動かそうと触るあの時の感覚が蘇えった。
ヤケドする直前という信じられない熱湯!
ここに入る人がいるのだろうか?
少なくとも、誰も入っていない。
ふり返ると、後塵をはいしているオジサンたちの目線がささる。
(あ奴、まさか入るのではないだろうな・・・)
期待と憧れと、ぶざまな姿を見たい欲求が、
その視線に込められていた。
ふと壁を見上げると、《湯あみ節》なるモノの歌詞が書いてある。
3番にこんな歌詞が・・・
「♪~53度で鍛えたからだ~♪」
なんじゃこれは!
48度でビビッている人を脅す目的で造られた歌としか思えない。
最近ローストビーフを作るマシンを購入したのだが、
そこで設定される温度が55度なのだ。
ほとんど同じじゃないか!
そんなお湯に入ったらイカンのではないか?
ここはひとつ、神経が鈍そうなカカトだけつけ、
悲鳴を我慢して、湯から離れる事にした。
脱衣所の前に、上がり湯があった。
《頭からかぶる湯》と書いてあったので、
なんとなくヒシャクですくい、頭からかけた。
ザバ~ン・・・・・・ぎゃあああ~~~~
何が起こったのか、目をあげると文字が書いてあった。
《頭からかぶる湯 48度》
ぎょああああああああああああああ~~~~~

那須 朝日岳