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駆逐水雷

駆逐水雷_e0077899_09140081.jpg
 昨日、本の話をした。

《わんぱく天国》 佐藤さとる著

この中に、戦前の子供たちの遊びが書かれてある。


《母艦水雷》 ぼかんすいらい

これは、陣取り合戦と考えていい。

私の育った大分では、《駆逐水雷》 くちくすいらい、

と呼んでいた。

駆逐とは駆逐艦のことで、水雷は、水中爆弾だ。

この遊びは、ジャンケンの考え方で成り立っている。

3つの立場のヒトに分ける。

 ・大将  一人だけ

 ・駆逐  大勢

 ・水雷  少数人

この3つがジャンケンの三つ巴の関係になる。

 ◇大将は、水雷に負ける

 ◇水雷は、駆逐に負ける

 ◇駆逐は、大将に負ける

負けるとは、身体にタッチをされたら捕虜となるルール。

そして、この三者の見分け方は、帽子のかぶり方。

 ・大将は、普通にかぶる

 ・駆逐は、ひさしを横向けにかぶる

 ・水雷は、ひさしを真後ろにかぶる


実戦を見てみよう。

大将は、敵の水雷に怯えなければならない。

その為に、近くに「水雷に強い大勢の駆逐」に取り囲まれている。

ところが、敵の大将みずから近寄ってきて、

我らの駆逐を片っ端からタッチしてゆく。

そうはさせじと、少ない人数の水雷をくりだす。


やはりジャンケンポンの関係が複雑にからみあい、

お互い手を出すものの、引っ込めるという、

非常に難しい戦いが続く。


さて、私が小学3~5年生の頃、大分県の臼杵市に暮らしていた。

今では有名な観光地となった、仁王座という町並みがある。

二つの丘に挟まれた場所であり、その二つの丘の一本松を、

お互いの城とし、30人対30人の戦さが行われた。

時は、夏休み初日。

朝始まった戦いは、昼をすぎても終わらない。

捕虜として掴まると、城である松の木に繋がれる。

繋ぐと言っても、手をつないでいるだけなのだが、

みんなルールだけは守る。

捕虜を助け出すには、大将が敵の城に行って、

仲間捕虜にタッチするしかない。

大将の周りには、20人以上の駆逐がいて、

大所帯で動いてゆく。

その中に2人ほどの水雷が潜んでいる。


では、けんじろう君は何をやっていたか?

身体が小さなけんじろう君であったが、はしこかった

「はしこい」とは、素早いとか、抜け目がないという意味で、

ある意味褒め言葉だが、ずるがしこいとも言えた。

こいつは、水雷向きだと、大将に一位指名された。

さあ、大任をまかされたけんじろう君。

ジャンケンの仕組みを頭に浮かべ、

二人の駆逐を従えて、敵地の奥深くに忍び寄る。

敵の大将が通るだろう細い道に狙いをつけたのである。

道が狭まくて駆逐が少なくなる瞬間にとびだす作戦だ。


 面白い事に、当時、町の中の道だけが、

戦場になっていたのではなく、他人の家の中でさえ、

子供が駆け抜けていたのである。

大人たちも、見て見ぬフリをしてくれていたようだ。

たとえば、昼ご飯を食べているちゃぶ台の横を、

靴を手にしたよその子が、走ってゆく。

天下分け目の決戦と銘打っていれば、それも黙認された。

ついでに、オニギリを差し出されたこともある。

 路地から路地へ、時には、屋根を伝い、

垣根の樹々にもぐりこみ、敵の大将をねらうべく忍び込む。

最も大切なのが大将なのだが、それを倒せる水雷も貴重だ。

帽子を真後ろにかぶったけんじろう君を含む3人組は、

いわば最前線の斥候である。

大勢の敵の駆逐におびえながら、猫さながらの忍びをしている。


戦いは夕方になると、一旦中止となり、

翌朝町のサイレンとともに再開される。

勝敗は大将が捕まった時なのだが、

そうそう簡単に捕まらないので、二日に渡って続くのである。

 ここでアナタに疑問が湧く。

「駆逐同しがタッチし合ったらどうなる?」

同じ位の者がタッチし合うと、ふたりともその場で、

暫くの間、帽子を脱いで非戦闘員となるのである。


何分そうやっているかなど、子供の遊びにルールはない。

自分がこれくらいと思う、時間帽子を脱いだままでいる。

いわゆるゴルフの不文律ルールと同じで、

自分が自分を律するルールである。

つまり審判がいない駆逐水雷では、

《自分を律するルール》がない限り成り立たない。

言い方をかえると、子供だから成り立つ遊びだと言える。

 非戦闘員になった途端ポケットから、

メンコを取り出し遊びだすのは、当たり前だった。


そしてこの戦いは、日本中で形はほぼ同じで、

名称だけ違う名前で呼ばれ、遊ばれていたようである。

はて、どの年代まで、この遊びは続いていたのだろうか・・・

駆逐水雷_e0077899_09141453.jpg
    現在の 臼杵市仁王座の町並み

      石垣は、忍者のように登る

by ishimaru_ken | 2021-06-13 05:13 | 昔々おバカな話
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石丸謙二郎
by ishimaru_ken
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