先日来、釣り道具の話を続けている。そうなると、どうしてもコレを語らねば終わらない。
《タモ》
魚を水中からすくう道具である。
蝶々などを採るアミとは形状が似ているが、違うモノだ。
丸い金属に深めの網がついて、魚をすくうようにしてある。
たまに四角形や三角形のものもあるが、
おおむね丸で、狙う魚によって大きさが違う。
「タモタモ!」
船の上で誰かが叫びだしたら、それは大きな魚がかかった合図。
「おお~い、タモぉ~」
大声が聞こえてくると、かなりの大きな魚と分かる。
「船長ぉ~タモタモタモッ!」
船長を呼ぶように連呼すれば、生涯初めての大物かもしれない。
「わあ~タモがな~い!」
タモが欲しいのに、タモがないと騒ぎだす人がいる。
誰かが使って、どこかに置いてきたらしい。
「タモ貸してタモ貸して!」
竿を立てリールを巻きながら、パニックに陥っている。
魚とのやり取りの最中に、タモのありかを探すべく、
首を振らなければならない。
誰かが差し出してくれたタモを受け取る。
その間も、竿を立て、魚が暴れるのを何とかこなしている。
と・・突然!
「あっ、バレた!」
魚が逃げたのである。
タモが手近になかったから逃げたのか?それとも、
単に運がなかったのか、定かでないが、
タモを握りしめたまま、ガックリ落ち込んでいる。
こんな経験をみんなしているからだろうか、
船中の人になると、すぐにタモを手近に置きたがる人もいる。
いつもタモがないと落ち着かない。
生涯に一度の大物が釣れた瞬間を、
逃したくない気持ちが大きい。
自分以外のヒトにタモ入れをお願いすることがある。
タモ入れとは魚をタモの中に入れる事なのだが、
以外や、難しい。
魚はタモを初めて見るハズなのに、タモを見ると逃げようとする。
だから、待ち構えるときも、遠くから素早く、
サッと掬わなくてはならない。
もたもたしていると、魚は暴れ暴れて針が口から外れてしまう。
あまり手慣れていない人にお願いした場合、
もたもた感でイライラが頂点に達したりする。
そのあげく、タモ入れに失敗し、大物を逃してしまった時なんぞ、
やり場のない憤りに、船べりを見つめたまま、
しばらく口を利けなくなっている。
まさか、誠意で手伝ってくれた他人を叱るワケにもいかず、
だからと云って、その人に頼んでしまった自分を呪っても、
何も生まれず、ただただ、タモに怒りをぶつけようとする。
「タ モぉ~」
うらめしそうにつぶやくのだが、
「た のむよぉ~」としか聞こえない。
釣り船に乗って、自信のない方は頼まれてもタモだけは、
手にしない方が身の為である。

サップで釣りにくりだす タモと共に