船釣りを初めていた人が、もっとも訳わからない言葉が、 《タナ》
「はーい、タナをしっかりとってくださ~い」
船長が、スピーカーマイクで喋る。
タナとは何だろう?
本棚のタナだろうか?
タナからぼた餅のタナだろうか?
おおだなの旦那のタナだろうか?
遊漁船のまわりの空に飛びかうカモメを見ながら、
大陸棚のタナなのかな?と口を細めている。
まずは、釣り界の正解を述べよう。
「指示タナをしっかり守ってねぇ~」
船長がマイクパフォーマンスをしている。
指示タナとは、海の中の魚がいる層の事を言っている。
魚は、のんべんだらりと、海の中を泳いでいるのではない。
ある層だけで暮らしている。
それは、季節や水温や様々な条件の中で、
彼らが快適だと思う《水深の層》を無意識に選んでいる。
たとえば、イサキが水深35mの場所にいると分かれば、
その上下2~4mの水深に大勢集まっている。
その上下にはいない。
ある意味、律儀な暮らしをしている。
たとえば、アジが海底から、3mの場所にいると分かれば、
そこにしかいない。
仮に、海底から6mの所に、美味しそうなエサを付けた、
釣り針をぶら下げても、まったく見向きもしない。
魚の群れは、基本的にその性質を持っている。
だから船長は、「タナを守れ」とマイクで、がなる。
1人でもタナを守らない人がいると、
タナボケという現象が起こる。
現代の釣りは、まきエサを捲いている。
そのまきエサが、タナの上だの下だの、でたらめに捲かれると、
魚たちは、動転する。
「あんだよぉ~屋上に食事が用意されてると、
言われたかと思ったら、地下3階に食べに行けって、
ああ~疲れるぅ~」
魚たちは、食事場所は一定にしたい性格なのだ。
ところが、そんな事お構いなしの魚もいる。
サバである。
水深が深かろうが、浅かろうが、全く気にしない。
食い物があるならば、たとえ深海はおろか、水面スレスレまで、
泳いで泳いで泳ぎまくる。
そんだけ泳げば、当然腹がすくので、バク食いする。
なんでも食べる。
エサを付け忘れた銀色の釣り針さえ、食ったりする。
そのあげく釣り針に引っかかり、釣り上げられる。
かのサバにとっての最後の晩餐が金属であったのが哀しい。
「タナボケすると、サバが来るゾ!」
本命の魚を釣ろうとしている時に、邪魔をする魚、サバ。
船長は、サバが嫌いではないのだが、
タナを守らない人のセイでサバに対して、
暴言を吐かねばならない状況を生み出したくないのだ。

フグもけっこうどこにでもいる