先日、池塘(ちとう)の話をした。池塘を山の上で見るたびに思うことがある。
《池塘は別世界への入り口》
不思議な国のアリスのお話しでは、
鏡が別世界への入り口になっている。
そこからの発想と言えるのかもしれないが、
あの鏡のような水面を見せてくれる池塘は、
もしドボンととび込んだら、
どこか向こうの世界にとび出すのではないかと想像が膨らむ。
とはいえ、試す訳にはいかない。
池塘は、立ち入り禁止である。
自然保護の観点から、すべての池塘に踏み込んではならない。
登山道以外を歩いてはならないのである。
なんたって気の遠くなるような時間をかけてできた池塘。
たった6畳ほどの小さな水たまりが出来るのに、
人間の歴史をはるかに超える時間が要る。
池塘の水の供給は、雨しかない。
つまり空からだけ。
川などからの注ぎ込みがない。
溜まった水は自然乾燥するだけ。
長い間、雨が降らなければ、干あがる。
実際、干あがった池塘を見た事もある。
深さ30センチほどの平たい窪みの中に、草が生えている。
別世界への入り口を失った感覚が蘇える。
青空を映し、白雲を映し、遠くの針葉樹の先っちょを映し、
時に、そびえる尖峰を映したりする。
登山道が反対側に回り込んでいれば、そこに立つヒトも映る。
ところが、この池塘に動物が映った写真は見た事がない。
なぜか?
池塘とは、周りに樹々のない開けた場所にしか存在しない。
そんな危ない所に鹿だのの動物はやって来ない。
水を飲みにくるにしても、夜である。
山の中の動物は鹿を含めほとんどが、夜行性。
もし、池塘に映る動物を撮りたければ、
夜用に設定したカメラを据え置き、辛坊強く待つしかない。
それはそれで、驚くような写真になるだろう。
池塘に映る夜空に流れ星が過ぎさるかもしれない。
UFOが映らないとも限らない。
まさかアッチの世界が映るとは思えないが、
(ひょっとすると映るんじゃないか)とのあらぬ想像は、
登ってしかいけない遥か山の中だけに、ふくらみは限りない。