私は、ヒトんチに泊まりにいくのが好きな子供だった。ヒトんチとは、友達のウチである。
小学生ならまだしも、高校生にもなって、
友達の家に泊まりに行った。
「明日泊めて」と言ったら、仲の良い友達は、
「いいよ」と言いながら、電話が黒電話の時代に、
かなりの家族会議を開いていたのだなと、
泊まった後になって分かった。
しかも、その友達の父親は、私の高校の教師であり、
社会科の先生として、私も教わっていた。
この微妙な関係での宿泊は、かなりシビアだったのだろうと、
あとで気づく。
夕食の献立は今でも覚えている。
メインディッシュは、餃子だった。
お皿に餃子が、ひとり6個づつ並んでいた。
一回に、200個の餃子を造っていた我が家の食事風景と、
かなりの食べ方の違いを感じた。
この違いを、知られたくないのだと、あとで分かった。
大学一年生の時、仲良くなった友達に、
「明日、きみんチに遊びに行こうかナ?」
問いかけた途端、彼から言葉がなくなった。
どうしたらいいのか分からないパニックになっている。
携帯電話のない時代、
自宅にどうやって連絡をしたらいいのか?
よそのヒトが訪ねてくるという稀れなる現象。
家族への説明の仕方が、彼の頭の中で渦巻いている。
しかして、翌日、私というヒトが、集合住宅の一室に。
――来た。
――どうしたらいい。
――なんか食べるの。
――いつ帰るの。
都会のウチに人が訪ねて来られると云う、のっぴきならぬ状況が、
私によって、引き起こされた。
40代後半になった頃、突然、イノちゃんチに泊まりに行った。
イノちゃんとは、ウインドサーフィン友達である。
年も離れているし、イノちゃんの実家は、
固い職業である。
突然、俳優さんが来るとなって、上へ下への大騒ぎ。
何をお出しすればいいのか、どこで寝てもらうのか?
もうひっくり返っている。
そんな事はいざしらず、「ごめんくださ~い」
当然のように、お風呂をいただき、
湯上がりにリビングで、ビンビールをポンッ!
ご両親とイノちゃんと、乾杯している。
なんなのだろう、この無神経さは・・・
ヒトんチお泊り好きは、今でも続いている。
続いているのは気持ちだけで、最近では、
泊めてくれるウチが少なくなった。
すこしさびしい。
夜の彼岸花