小さな板に、紙を貼っていた。口紅型の《スティック糊り》を引きだしから取りだし塗り始める。
次々に板に貼り紙をしてゆく。
ノリはすぐ乾く。
すばやく貼り付けを終わらなければ、いびつに貼られてしまう。
どんどん貼った。
しばらくして、結果を確認すると・・・
ん・・・?
紙がはがれてくる。
簡単にはがれる。
ど・どういう事?
さっきから白い紙を貼っているのだが、
なんとなく濡れた感じになっている。
こんな事は、スティックノリを使うようになって始めてだ。
すでに20枚近く貼っている。
だのに、ベラベラとはがれまくる。
ふと、右手に持っているスティックを見つめる。
それが冒頭の写真のモノだ。
《LIP BALM》と書いてある。
これはどこで手に入れたものだ?
思い出してみると、たしかメークさんから頂いたモノだ。
メーク・・・RIP・・・
《リップクリーム》?
糊じゃなかったのかぁ!
そういえば、濡れた感じになってたナ。
ぬるぬるしていたナ。
剥がれた断面に鼻を近づけて見ると、いい匂いがする。
試しに、指でこすり、くちびるに塗ってみる。
「コレは!いつぞや塗ったリップクリームではないか!」
あらためてセリフにするまでもなく、リップクリームそのものだ。
引き出しの中から取り出した時に、
一緒に入っているスティック型の糊と間違えたらしい。
ふむ、そこまでは分かった。
するとひとつ疑問が湧く。
なぜ、リップクリームをノリだのセロハンテープだのが、
入っている引き出しに仕舞ったのだろう?
つまり、引き出しに入れる時点ですでに、
「コレは糊だ」と思い込んでいたのである。
そしてその間違いをそのまま証明すべく、
スティック間違いをしでかしたのである。
相当のアホだ。
しばし、愕然とうつむいていた。
自分のバカさ加減に涙が出そうになった。
っとその時・・・・むくっと顔をあげる。
これって、僥倖だったのではないか?
素晴らしい発見に気づいた。
もし、これがサカサマだったらどうだろうか?
ある日、引き出しからスティック糊を引っ張り出し、
ドラマの撮影現場に向かい、本番前にリップクリームのつもりで、
そのノリを、唇に塗りたくったとしたらどうなる。
「はい、本番いきます!」
「ちょ、ちょ、ちょっと、まってくらはい」
「どうしましたかイシマルさん?」
「く ち が、くっちゅぃて・・・」
ほうらネ、私は、その危機を未然に防いだのですヨ。
サカサマの失敗をしたが為に、「事前に間違いに気づく」という、
褒められてしかるべき行いをしたのですヨ。
だから――
お馬鹿だの、アホだのと指ささないでいただきたい!
スティック糊