《アルファ》に始まり、《デルタ》ときて《オミクロン》。さてこの先、名前がどんどん変わってゆく。
どこまで行くのだろうか?
いや、この名前に意味があるのだろうか?
一応名前が付いている。
しかし、本人はその名前を知らない。
本人と呼ばれたウイルス自体は、名前を知らない。
知らないという事でいえば、
インフルエンザも、本人はその名前を知らない。
では、範疇をひろげて――細菌のコレラ菌は、
自分の名前を知らない。
もっと広げてみよう。
タンポポは自分の名前を知らない。
思い切って、さらに広げよう。
ライオンは自分の名前が、ライオンだと知らない。
シロクマも自分の名前を知らない。
知っている動物は、誰一人いない。
近しいところでは、自宅にいる「ワンッ」と吠えた犬も、
自分が犬と云う名前だと知らない。
当然、「にゃ~」の猫もしかりである。
ウイルスから犬まで、押しなべて、本人は名前を知らない。
知らないのに人間に、きちんと名前を付けられている。
すべて名前を登録され、図書館に保管されている。
図鑑に明記されている。
時に、ほんのちょっと変異したとしても、すぐさま、
○○2などと、命名される。
めんどくさい時は、《○○もどき》だの、《○○の類》だの、
らしい名前を付けられる。
自分の名前を連呼するインコのピーちゃんですら、
自分の名前を知らない。
《ピーちゃん》の名は、「おい」と同義語であろう。
愛犬の《ポチ》の名は、「こら」と同義語かもしれない。
よもや、種族を表す《いぬ》という言葉を、
彼らは全く理解していない。
自分のことを「ごはんだよ」と思っているかもしれない。
猫なんぞは、知らぬ存ぜぬで、
「吾輩は、時々ネコなどと呼ばれているが知りません」と、
おケツをペロペロ舐めている。