《ポリシャ》という掃除マシンを御存知だろうか?その昔、ビル掃除のアルバイトをしている頃、
私はポリシャの使い手だった。
それは、ビルの廊下のタイルを洗うのに活躍した。
掃除ロボット、ルンバのような回転をする円形のモノから、
取っ手が長く伸びて、その先を私が持ち、
回転に合わせて動かしてゆく。
広大な廊下を、最短時間で掃除する為に開発されたようだ。
廊下の掃除の仕上げには、水性ワックスと油性ワックスを使う。
・水性は、簡単にできるが、日持ちしない。
・油性は、長持ちするが、ワックスがけが大変。
油性ワックスは3か月~半年に一回程度やっていた。
現在のおおきなビルでは、概ね油性ワックスがかけられている。
さて、そのビル内を歩いていると、床のタイルの削れが気になる。
大勢の人たちの歩いた跡が削れている。
ワックスを削るには、ポリシャのような強力な回転で、
ブラシをまわし削らなければ、凹むものではない。
なのに、廊下には、人が歩いた跡が道になっている。
皆が、最短距離を歩こうとした結果が、見えている。
カーブにはなるべく壁際を攻めているし、
真っ直ぐの時は真ん中を。
自動車のサーキットレースのように、インアウトを的確に、
捉えている。
なにも考えずに、歩いてゆくと、
皆が作った道を歩いている自分に気づく。
「いかん、人と同じ道をあゆんでしまった」
小さな反省をして、削られた黒い跡を踏まないようにして進む。
角は大きくカーブを膨らませる。
「人と同じ道は歩まない」と決めた若い頃の淡い夢を思い出して、
廊下を大回りに歩くおかしな人になっている。
神社の階段を見ても、《削れ》に驚くのだが、
人の歩みというものは、おおぜいになれば、
おおきなチカラを持つものなのですネ。