日田やきそば
《箸入れ》 はしいれ
この言葉は、テレビの食べ物番組で、
食べものを、箸で持ちあげる時に使う、専門用語である。
「は~い、次は箸入れいきま~す」
ディレクターが声をかけ、AD(アシスタントディレクター)が行う。
本来であれば、出演者が食べているわけなので、その本人が、
箸入れを行わなければならないのだが、諸般の事情で、
別の人が箸入れを代わりにやる。
箸入れのビデオ撮りは、接写である。
ズームの限りを尽くしている。
箸の先っちょしか映っていない。
すると、ほんのちょっとした揺れでも、ブルブルとした揺れになる。
このブルブルはいただけない。
観ている方が、気持ち悪い。
とはいえ、冬季オリンピックのバイアスロン競技で分かるように、
箸先の震えを止めるのは、安易でない。
呼吸を止めたくらいでは、揺れは止まらない。
「揺らすなよ!」
こわもてのディレクターの叱責が落ちるにつれ、震えは大きくなる。
食べ物旅番組の黎明期、日本テレビの《ごちそうさま》で、
全国を旅していたイシマル。
当時は、食べる本人が箸入れをしていた。
当然といえば、当たり前のなのだが、イシマル・・・
箸入れが得意だった。
震えも揺れもなかった。
カメラマンの支持するピンポイントに、刺身をすっと持ち上げる。
しばし・・5秒以上止める。
「そのまま」の声に、10秒・・・20秒、キープする。
長いときは、1分以上、キープする。
カメラマンは、ズームしたり、パーンしたりしている。
最近、この箸入れ作業をテレビで見ていて、「この人は!」
っと驚いた人がいる。
《酒場放浪記》TBSの吉田類さんだ。
あの方は、自分で箸入れをしていると詠んだ。
そのアップが、いかにもどうどうとしている。
震えがない、揺れがない。
ただでさえ、酒を呑んで、くだくだになっているであろうに、
手先はしっかりしている。
吉田類――ただものではない!