エンデュアランス号が見つかった!
大発見のニュースがとびこんできた。
それは、船の名前である。
大航海時代、いまから遡ること107年前。
イギリスの探検家、アーネスト・シャクルトンが、
南極点を目指して海を渡った。
まだスコットもアムンゼンも南極点に達していなかった時である。
世界中の冒険家が、しのぎを削っていた。
《エンデュアランス号》とは木造の帆船。
探検隊長であり、船長であるシャクルトンは、
南極探検の隊員をつのる文面をイギリスで発した。
「探検は暗くつらい。厳しい寒さの中、数カ月におよぶ。
給料は安い。命の保証はない。
ただし、成功したあかつきには、
名誉を得るだろう」
(要約)
多くの心おどる冒険心にはやる男たちが面接に集まり、
その中から 28名の者たちが、船出する。
やがて船は、南極の氷の中を突き進む。
ところが、船は氷に閉ざされてしまう。
ついには、船を捨て、南極の地に閉じ込められてしまうのである。
その時、船は、氷の圧力に屈せず、バキバキと大音量のもとに、
南極海に沈んでしまった。
その後の大冒険は、本として出版され、冒険本としては、
世界最大の冒険とまで言われるようになった。
(シャクルトン本人が書いている本《エンデュアランス号漂流記》
も出版されているが、私としては、別の小説家が改めて書いた
《エンデュアランス号漂流》という本が好きだ)
詳しいことは、ここで述べない。
いずれにしても私の冒険物語の最高峰である。
物語と言ったが、実話である。
その船が、発見されたのである。
3000mの深海に沈んでいた。
映像で見ると、当時のままであることが分かる。
(当時のままとは――かの探検隊に写真家が乗り込んでおり、
生きるか死ぬか、いや死ぬだろうはざまにも、カメラを捨てなかった。
それどころか、すべての印画版を持ち帰ったのである)
したがって今、船を発見した人たちは、当時の写真と海底の映像とを、
照合している最中だと思われる。
陸上では、ほとんどの者が風化してしまうが、3000mの深海では、
107年の月日は近かったのかもしれない。
サンゴや、プランクトンに侵されることも少なかったらしい。
フナ虫が生息しない地域だったとも言われてる。
ひょっとすると、シャクルトンたちが、残していった忘れ物が、
歳月を経て、浮上するかもしれない。
ほとんどのモノを運び出したという記述を覆してほしいものだ。
われわれ読者としては、あの船は粉々になって海の藻屑になっていた。
まさか原型をほぼ完ぺきに留めているとは――
大冒険には、続きがあったのか!