この写真、なんでしょうか?なんでしょうかと、わざわざ問うている。
《トンカツ》と答えた方は、当たっているとも言えるが、
間違っていると言う方が正しい。
確かにトンカツに見える。
どう見てもトンカツだし、旨そうだ。
ところがコレは、食品サンプルである。
しかも、特筆すべきは、私が拵えたモノ!
(ここでイスを蹴立てて驚くと、良い読者と誉められます)
食べられない。
材料は、粘土のような物質でできており、
それをオーブンで焼いて、スプレーで
絵具を吹き付けている。
先日話した長崎の波佐見町に、
食品サンプルを作る工房があった。
昔からサンプルに興味津々の人は多いと思う。
そのひとり私も、興奮して工房をのぞきこんだ。
入った途端、あふれる色にびっくりさせられる。
様々なサンプルが所せまし、棚せましと並んでいる。
通路を歩くのがやっと程に、置かれてある。
片付けがヘタなのではない。
あまりもの量に工房そのものに飲みこまれている。
興奮する私に差し出されたのは、粘土。
好きなモノを作って良い言うではないか。
となれば、作りたいものは、すぐに浮かぶ。
《トンカツ》
ああだこうだ、つくること小一時間――
できた!
いかにも旨そうだ。
自分で拵えて、正体を知っているにもかかわらず、
一応、噛んでみた。
噛んだ感触を覚えておいて、イザという時に、
間違って食べようとする心を抑える為だ。
(んなばかな)
サンプルの特徴として、裏返せばバレる。
世の中に、○○してはならないモノ、というモノがある。
たとえば、
「決して開けてはなりませぬ」
と願うのは、おつうが、よひょうに言うセリフだ。
鶴の恩返しで有名である。
「決して触ってはなりません」
火災報知器の作動ボタンである。
なぜかアレは押したくなる衝動にかられる。
かられてはならぬ。
「決して見てはならぬ」
古代、メデューサの首をさしている。
見たこともないメデューサの姿絵を、
美術館に飾っているのだから、人の想像力は面白い。
「決して裏返してはなりませんゾ」
私のトンカツもどきにも、指令が下される。
裏返してガッカリするくらいなら、
腹が減ってがまんならない時、コレを見ているだけで、
満足する心を鍛えましょう。
なぜ、そんな無理な指令をするかと言うと、
この工房で、長時間サンプルを眺めていたら、
空腹が忘れられたのである。
いろんな食品を食べた気になって、
食べることに拘らなくなったと云うのが正しい気がする。
実際、工房の持ち主は、スマートな体形をしていた。

すべて食品サンプル