よく足をぶつける。家の中を歩いていて、ついヒザだのつま先をぶつける。
つま先ならまだいい。
小指をぶつけると、しばらくうずくまって、自分を呪う。
反省という、うな垂れを通りこして、呪いにまでなる。
いままで平穏に生きてきたのに、なぜ小指をぶつけるのか、
ジッと黙ったまま、1分間の黙とうの儀式となる。
柱にもヒザをぶつける。
さほど運動神経が弱くないハズなのに、ぶつける。
急いでいたとか、ほかの考え事をしていたなどと、
言い訳は聞きたくない。
ぶつけた事実は、痛みとして、自分が責められる。
タンスにもぶつける。
かなり激しくぶつける。
あのコマーシャル《タンスにゴン》は間違っている。
言い換えてもらいたい。
《タンスにガン!》
さほどタンスの角は痛い。
ガンとぶつけて、あまりの痛みにタンスに寄りかかろうとする。
痛みの原因を作った相手の肩をかりている。
よく考えれば、おかしい。
むしろ、タンスを蹴り飛ばさなければならない。
しかし蹴り飛ばして、失敗し、小指をぶつけたりしようものなら、
タンス自体を恨みだす。
《タンスにゴキッ》
タンスと本棚は、家の中で足をぶつける二大巨匠なのだから、
角を丸めるという愛嬌をぜひやっていただきたい。
しかも、タンスは引き出しに「指をつめる」という恐ろしい口を持っている。
開けっ放しの口は、粗忽者の指欲しさに、すこしだけ開いている。
部屋に入ってきた粗忽者が、つまづき倒れそうになり、
つい手を伸ばした先に、細い引き出しの口があり、
指を差し込んだ瞬間に、自分の体重が引き出しにかかり・・・
ああ~これ以上想像したくない。
《タンスにグチャッ》