昨日、馬の暴走の話をしていて、同じドラマの中で、もうひとつ事件があったことを思い出した。
テレビ局の中のスタジオでの撮影中。
時は元禄時代、殿の奥方の乗るお輿が運ばれていた。
お輿は城の外では、男の人夫が担ぐのだが、城内の大奥では、
女性たちが担ぐ。
ドラマでは、忠実に女性6人が重いお輿を担いで撮影していた。
「カット~」
カットがかかると、お輿を前の場所に戻す。
何度も同じ動きをして、いろんな角度から撮影する為だ。
部屋の中から、屋外にお輿をおろしているシーン。
戻す作業も役者の女性たちがしている時だった。
主演の高橋英樹さんが、大きな声を出した。
「おおい、助監督ぅ~助けてやれヨ~」
戻す時くらい運んでやりなさいと示唆したのである。
それを聞きつけたのが助監督のS君。
彼は、撮影中さまざまな失敗をしでかす粗忽者として、
皆の注目を集めていた。
落語でいうところの、与太郎である。
おりしも部屋の奥から4,5段の階段を経て、庭まで、
真っ赤な緋毛氈が敷かれてあった。
「はい!」
高橋さんの声を受けて、S君が走り出した。
庭から部屋へ、緋毛氈の上を走ったのである。
それも運動靴で・・・
するとどうなる?
階段の分、緋毛氈は布が余分にある。
靴底が緋毛氈をどんどん掴んで後ろに滑らす動きになる。
つまり、彼の身体は一か所に留まったまま、緋毛氈が、
後方に投げ出されてゆく。
トムとジェリーでトムが急いで走る時の動きに似ている。
観客である我々は、それを唖然と見ていた。
すると、お輿の重みで動きを止められた緋毛氈が、
ぴんと伸びきった途端!
S君の激しく動いていた靴は緋毛氈をガッチリと掴み、
いっきにダッシュすることになる。
(トムの走り出し)
タタタタタタ
つんのめりながら、そのままお輿に体当たりしていったのである。
被害にあったのは、6人の女性とお輿。
ドダ~~~ン!
大きな音をたてて、ひっくり返り、あろうことか、
お輿はバラバラに分解したのである。
(分解したおかげで、誰も下敷きにならず無事)
わずか数秒の出来事に、われら役者スタッフ数十人は、
動くことすらままならなかった。
ただただ事の顛末を、しっかり目に刻んだ。
関所を扱ったフジテレビの3時間ドラマだったと記憶している。
その後、S君はどうなったのだろうか?
立派な幹部になっているのだろうか?