大分県に、《蒲江》かまえ という町がある。県南の佐伯市(さいき)の中にある。
50年ほど前には、大分県の中でも、とおいとおい田舎であった。
どうやって訪れればいいのか、悩みぬくほどの田舎の代名詞だった。
汽車を乗り継ぎ、滅多に来ないバスに乗り・・・
それが今や、高速道路が通じて、あっという間にたどり着ける。
では、今なぜ蒲江なのか?
時代に取り残された町や村は、貴重である。
まず自然がふんだんに残されている。
自然があれば、人の性質もおだやか。
自然とは、蒲江の場合、海。
魚がわんさか!
大分県の県南は、数10キロにわたる完璧なリアス式海岸。
湾奥深く入り組んだ海岸線と、小島でできている。
その上、豊後水道という超のつく速い潮。
そのリアス式が始まる北の端が、佐賀の関と言って、
ブランドサバである《関サバ》の生息地だ。
そして南の端が蒲江なのである。
佐賀の関から蒲江までのリアス式は、三陸のソレを越えている。
日本地図をひらいてみると分かるが、
これほど入り組んだ海岸線は、ほかにないと言える。
岬と引っ込んだ奥の差が、非常に大きい。
長さもさることながら、グジャグジャ感は、海岸に敷かれた道を、
車で走ってみると分かる。
目の前に見えている向こう側に行くのに、
なんども海に向かって走ったり、山に向かって走ったり、
いっかな辿り着かない。
仮に佐賀関から蒲江まで、直線で100キロほどなのに、
海沿いに道を走ったら、その10倍は走ることになりそうだ。
しかも、岬の先っちょまでの道はない。
途中、どこかでトンネルでバイパスする。
運転する者はいいだろうが、同乗者はまず酔ってしまう。
リアス式海岸とは、山の中にある山脈がそのまま、
海に沈んだ状態と思えばよい。
浸食された山並みの等高線に道路を造るには、
行ったり来たりの出入りを繰り返す。
まさに、大分県南の出入りである。
その分、魚の漁礁となりやすく、昔から魚種も量も豊富だった。
さすがに昨今、減ってきたと言っても、元本が違う。
釣り人には垂涎の地域となっている。
これでアクセスさえ良ければと、昔から言われてきたのが、
ついにアクセス良し!となったのだから、たまらない。
魚は釣るばかりではない。
養殖も盛ん。
釣るだけでなく、魚を観たいと、スキューバダイビング目指して、
人が集まるようにもなっている。
サンゴだって在るのだから・・・
ちなみに漁港の船着き場の海面をのぞき込んでみると、
鯖だの鯵だのイワシだの、小魚がわんさか泳いでいる。
目にも鮮やかな青い魚は、ソラスズメダイだと、
地元の人が教えてくれた。
秘境と言われた地が、逆転してきて我らを喜ばせる地になる。
時代が変わった。
移り住む人たちが増えたのも理解できる。
わんさかを許容できる土地と人がおられるのが、
大分の良いところかもしれない。