やたら飛行機で飛んでいる。アッチの空、コッチの空。
1万メートルの上空を体験している。
すこしだけ地球から飛び出した感覚となる。
宇宙飛行士とまでは言わないが、
かなり宇宙に近づいていると言えよう。
なんたって、空の青さが違いすぎる。
青というより、紫外線の、紫に近い。
見えないハズの色を見ている。
空港で搭乗前に、雨が降っているからと、安心して、
日焼け止めを塗るのをサボると、痛い目にあう。
飛行機の窓から漏れくる《紫》はかなり強い。
小一時間のフライトで、メラニンさんが活発に働く。
窓側で、眼下をゆっくり過ぎる島々を眺めていると、
顔の片側だけ、色が変わってしまう。
それにしても、昨今の飛行機は揺れなくなった。
「機長の指示に従い、私ども客室係も着席し・・・」
これから気象の影響で、飛行機が揺れると予告してくる。
シートベルトのヒモを引っ張り強めに締める。
「さあ、来い」
腰をすえて待っている。
搭乗前に調べた気圧配置では、かなりヤバそうな前線があった。
すると、ガクンっ
ちょこっと揺れる。
カクンッ
一応揺れる。
まあ、その程度だ。
40年前の飛行機事情。
空を飛んでいる機種が、すべてジェット機という訳でなかった。
プロペラ機もかなり飛んでいた。
このプロペラ機は、出力が弱いのか、それとも、
急激な動向にエンジンが反応しないのか、よく揺れた。
特に到着に向けて降りてゆく時に、不安定になった。
おそらく降りるにはエンジン出力を絞るという動きをするのだろう。
そんな時に積乱雲などの怖い雲の中を通過すると、
ドスンっ!
大きく機が落ちる。
当時、《エアポケット》なる言葉が、紙面テレビを賑わし、
飛行機が空中で、数メートルから数十メートル、
いっきに高度を下げる現象だと説明していた。
実際、羽田から大阪伊丹空港へ向かっている際、
この現象にめぐり合った。
ガクンっでもドスンっでもなく、
ス~~
ゆるくシートベルトをしている体が宙に、一瞬浮く。
目の前のテーブルの上のトレイが30センチほど浮いている。
前の席の女性の髪が、杉玉のようにブワ~と膨れあがる。
となりのオジサンの腕が、中途半端な万歳をしている。
次の瞬間、すべてがドスンと落ちる。
ここで初めて短い悲鳴があがる。
これが、10秒後にふたたび起こる。
しばしば航空パニック映画で観られるシーンの再現だ。
それまで飛行機にほとんど乗ったことがなかった私は、
この状態を異常だとは思わなかった。
あこがれの飛行機とは、遊園地のアトラクションだと考えていたので、
むしろ、楽しんでいたのである。
身体が浮く。
紙コップが浮く。
テレビで聞いた《エアポケット》を教育されている。
飛行機とは、降りる時に、この洗礼を受けるものだと、
面白がっていたのだった。
その後、プロペラ機に何度か乗ったものだが、
やはり何度か身体が浮いた。
しかしここ30年・・・
あれほどの上下動はない。
きっと、飛行機が進化したのだろうと信じている。
「ものすごく揺れたねぇ~!」
到着した機内で、ざわめきの声を聞いた便でも、
あの昔の飛行機を思えば、へでもない。
バンジージャンプとブランコほどの差がある。
アトラクションと遊技の差。
つまり、あれほど揺れた飛行機でも落ちなかったのだから、
現代の飛行機の安全性はいかほどか――

最近のプロペラ機は、プロペラをジェットエンジンで回しているそうだ。