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料亭旅館の池の鯉を食べる

料亭旅館の池の鯉を食べる_e0077899_09322554.jpg
~~~おとといからのつづき~~~

広い屋敷と庭と池。

その水が汚いから「抜く」と宣言した父親。

部下として命令を受けたのは、次男坊けんじろう君。

栓を抜き、ドロをかきだし、逃げ回る鯉をポリバケツに放りこむ。

その数、すう百匹。

池は最後の仕上げに、やはり父親がどこかから借りてきた、

デッキブラシで、コンクリ―の底をゴシゴシこすり掃除する。

あとは、栓をしてきれいな真水を溜めるだけまで、こぎ付けた。

 ここまで一週間経っている。


その二日前だった。

ポリバケツの中でバシャバシャと泳ぎ回る鯉を見て、

父親がつぶやいた。

 「食べよう」

元来、魚好きの家族である。

池の鯉ですら、胃袋が反応する。

両親が話しあった末、中華料理がいいのではないかとの結論。

良きことに、明治時代からの料亭旅館だったお屋敷。

広い厨房に行けば、直径1mはあろうかという中華鍋がある。

そこに油を大量に注いだ。


 ポリバケツからタモで掬った鯉を持ってきて、

内臓とウロコを落とし、メリケン粉をまぶした丸ままを油に入れる。

ジャァ~~~~~

つい大きな魚体のモノを選ぶので、なかなか火が通らない。

60センチを超えると、尻尾は飛び出ている。

コッチを持ち上げ、アッチに転がし、

カラカラにあげてしまう。

その間に、もう一つの1m中華鍋に、中華あんかけを母親が作る。

つまりカラッとあがった鯉に熱々のあんかけをかける。

中華料理の定番である。

店で注文すれば、それなりの金額をとられる。

メニューの下の方に書いてある。

時価と書かれたものも見たことがある。


その夜、家族5人がおおきな鯉料理をそれぞれの前に置き、

「いただきま~す」

いや~旨いのなんの!

ガツガツと1匹たいらげた。

脂まみれの口で、父親が宣言する。

 「ひとり一匹ナ!」

これから毎食一人1匹がノルマだと言う。

家族の歓声があがる。

中華料理の豪華なメニューをずっと食べられる喜びに、

両手を高々とあげた。


次の日早朝から、終わりの見えないドロ捨ての作業と、

ポリタンクへのホースでの水の供給。

さらには、最も高いところにある池から水張りを始める。

水を入れながら、泥水をくみだす。

なぜか?

池にいる生き物は鯉だけではない。

カエルや、昆虫など様々な生き物が、蠢いている。

それらを死なせてしまう訳にはいかない。

上流から、少しだけ清流を流すのだ。


激しい労働に腹が減る。

昼には、中華あんかけが待っている。

自分で鯉を掬い、自分で油であげ、自分であんをあけ、

 「いただきま~す」

完食!

こうして、ひとり1回に1匹、三食食べる。

という事は、一日に、真鯉が3匹×5人=15匹消える。


やがてドロもすべて掻き出し、真水を溜める作業が進む。

抜くのに時間がかったが、溜めるのにも一週間ほどかかる。

なんせ大きな池。

その間、真夏の食事は鯉だけ。

旨い旨いと食べていたのは、二日目まで。

大きさも、最初は60センチほどの大型を油に放り込んでいたが、

次第に、50センチ、40センチと小型を求めるようになり、

たまに30センチの鯉を見つけると奪い合いになった。

以後、水が溜まるまでの一週間で、

100匹近くの鯉が消えた。


 「飽きた・・・」

父親が終結宣言もどきの言葉を吐いた。

さすがに鯉を一週間3度3度食べ続けると、しんどい。

最初の頃の感動は、もはやない。

高々とあげた両手は何だったんだろう・・

あんかけだけという献立にも問題はあった。

あんかけの味付けは変化させていたようだが、

いかんせん、主役が鯉だけ。

食べてツツキまわした鯉の骨を見つめながら、

全員が同じ言葉を吐く。

 「飽きた・・・」


もっと早くこの言葉を吐いても良かったと思うのだが、

《すう百匹の鯉を食らう》という特殊な食事に興奮していたのは否めない。

かれこれ父親の「洗う」宣言から2週間が過ぎ、

池に水が溜まってきた。

いよいよ鯉を池に戻す作業である。

鯉本来の役目を果たして貰わなければ。

ここで、けんじろう君が、中学生の友人たちに声をかける。

「真夏に、鯉と一緒に泳がないか?」

鯉の棲む環境は濁った水なので、澄んだ水で一緒に泳ぐなど、

たぶんありえない経験だろう。

呼びかけに、何事かと集まった友人たちが、

おそるおそる澄み切った水にからだを沈める。

水中眼鏡をつけて、泳ぎだす。

少しだけ、我が家族の肉体に移動しただけでまだまだ大量の鯉。

鯉を追いかけ、追い廻し、捕まえようと泳ぎ回る。


釣り糸を水中で持って、針にパンくずを付けたら、

釣れるのではないかとアイデアが浮かび、実践してみる。

果たして、すぐに鯉が食いついてくる。

取り込もうとするが、水中では鯉の方が強い。

そのまま引かれて泳がされてしまう。

つまり鯉にけん引され水中を漂うのである。

とりこんだ鯉は60センチ以上の大型。

友達が、食おうと言い出した。

 ドキリっ

しばしの沈黙のあと、けんじろう君――

「明治時代から生きてきた鯉を食べるとバチが当たるらしいゾ」

消えた鯉については黙して語らなかった。


そう、あれ以来、高級中華料理屋に行っても、

中華あんかけのページには興味がない。

料亭旅館の池の鯉を食べる_e0077899_09332688.jpg


by ishimaru_ken | 2022-06-13 05:40 | 昔々おバカな話
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