大分県の旅番組中だった。現地に向かうロケ車の中に、新人のスタッフがいた。
新人と言っても、その番組の新人であって、ベテランのカメラマン。
仮称《アンドー君》が、今回の主役である。
「今日訪ねる村、雨が90%とNHKが言ってますヨ」
アンドー君がうなだれ気味に、ロケ車の中で口角をとばす。
それを聞いているのは、私と、毎回一緒の二人のスタッフ。
その二人は、私が《究極の晴れ男》であることを、
何度も経験してきている。
まさかの晴れに、何度も感動すらしている。
ゆえに、雨予報に全く動じていない。
「どうするんですか?」
アンドー君が心配している。
そこで、私が、彼に晴れ男レクチャーをしてあげる。
「心配無用、行けば分かるサ」
晴れ男などという、訳の分からない説得を受けた彼は、
まったく意味のない根拠を押し付けられたかのような顔をしている。
イシマルさんが自信満々なのは、どうでもいいが、
他のスタッフ二人までが、なんの心配もしていないのが、
解せない、という顔をしている。
そうして、雨ワイパーの小刻みな振りを見ながらの、
2時間のドライブの後、現場に着いた。
「あれっ、晴れてますネ」
アンドー君が驚いている。
「天気予報はどうなったんでしょうか?」
かくして、カンカン照りの中、一日のロケが順調に進んだ。
そして次の日。
朝、ホテルに迎えに来たロケ車のワイパーが必死に働いている。
せわしなく動いている。
大雨だ。
本日のロケは中止になるのだろう・・・とアンドー君が、
ソファーにふんぞり返っている。
「ついに《究極の》、とやらは、終わりますネ」
皮肉たっぷりのアンドー君の喋りを、車の中のみんなが聞いている。
「天気予報では、一日中大雨だそうですヨォ~」
唇を突き出している。
なのにだれも、「うん」とは言わない。
それどころか、着いてからのスケジュールを考えている。
土砂降りの中、ロケ車は走る。
あまりの雨に、高速道路なのに時速50キロ以上出せない。
ところが、到着10分前から、雨粒が小さくなった。
やがて、ワイパーが動きを止め、
「到着です」
の声と共に、真っ青な空が広がったのである。
慌てて、日焼け止めを塗るアンドー君。
他のみんなは、すでに日焼け止めは塗っている。
イシマルの究極の晴れ男を、何度も経験し、安心しきっている。
これまでも、それ以上の逆境であっても、晴れてきた。
たとえ、台風予想でも、晴れてきた。
その日、大分県中、雨なのに、この場所だけ晴れている。
もはや、不思議とか、奇跡とかの範疇を越えて、
当たり前の現象となっている。
こんなのが、今年になってから、たしか6回目かな。
去年からだと、10数回目、いやもっとかな。
その前、10年さかのぼれば、何回目になるのだろうか?
20年さかのぼれば、もう数えきれないじゃないか。
奇跡も頻繁になれば、もはや、そう呼ばれない。
初めてその場面に遭遇した人だけが、奇跡と呼ぶ。
毎回遭遇する人は、慣れっこになって、
「ああ~またですね」
「まあ、当然ですかねぇ~」
当人の私とて、
「今回はダメかな」と何度思ったことだろうか。
それでも、驚きの晴れとなる。
つまり私が信じるから晴れになるのではなく、
向こうから、晴れがやってくる。
これこそが、究極の晴れ男の命名条件なのだろう。
ここで白状しておく。
まさかの晴れた日を、私は全部発表していない。
ほんの少しだけ、今日のように披露している。
全部言い出したら、このコーナーがうるさくて仕方なくなる。
ああ~
いったいいつになったら、ロケ現場に雨が降るのだろうか?