
《木下小屋」
《羅臼岳》 らうすだけ 1647m知床半島の真ん中にこの山はある。
古い火山だ。
深田久弥の百名山に含まれるので人気がある。
多くの登山者が、最果ての地までやってくる。
いったいどうやってここまで登りにくるのかと心配するほど、
果ての果てである。
そう思っていたら、羅臼岳の登山口に、ホテルがあった。
《ホテル地の涯て》
ものすごい名前を付けたものだ。
これ以上ないと言う命名の発想からすると、食堂の、
《満腹亭》と考え方は同じだろう。
気になり方が尋常でなかった私は、電話して申し込んだ。
すると、「泊まれるが突然なので夕食は作れない」と言う。
夕食ぐらいなんとかする。
地の涯ての温泉に浸かりたい。
露天温泉があるのだ。
なんとか泊まれる算段は付けられた。
いかいでか!
(しまった、数日前に、露天風呂の恥ずかしい話をしたではないか)
実は、その奥に、山小屋があった。
《木下小屋》
通りかかると、ご主人が、ベランダの丸太に腰かけていた。
「こんちは」
「はい、いらっしゃい」
にこやかな笑顔で登山客を出迎えている。
地の涯ての更に先にあるのだから、何と呼べばいいのだろうか?
その昔、木下弥三吉(やみきち)さんが、艱難辛苦の末、建てた山小屋。
羅臼岳の山道も切り開いた方である。
20年ほどまえに、お亡くなりになったが、そのレリーフが、
山の道中にある。
「ウチには露天風呂があるんですヨ」
嬉しそうにおっしゃるので、のぞいてみる事にした。
裏に回ると、3つの露天が湯気をあげている。
「自分で造ったのサ」
嬉々として、入れ入れと誘っている。
「次に来たおりに・・・」
あまりにも楽しそうな環境の露天風呂に後ろ髪をひかれながら、
その場を辞した。
時にヒトは、地の果てに行きたがる。
これ以上ない果てを求めたがる。
果てなら、いっそ物凄い果てが嬉しい。
知床にはそれが、まだまだ残っているようである。
蒼き海に向かって、なんども両手を合わせながら、
まんまの山に、足を向けるのでありました。

木下小屋の露天風呂