そういえば、夏に北海道の山で、熊にであった。親子熊2頭だった。
こんな話しに、「そういえば」というセリフを頭に付けるのは、
どうかと思うのだが、さっき突然思い出したのである。
そういえば、羅臼岳(らうすだけ)登山の最中だった。
谷間の高山の花が咲き乱れる所に登山道が続いている。
ウンコラショと、ももを引き上げている時だ。
前方60mほどの高所に、なにやら動く茶色黒い動物。
すぐにヒグマだと分かった。
大きさは、大きな犬ほど。
道の脇に咲いている黄色い花を、パクリパクリとやっている。
っと、左の方からもう一匹、最初の3倍ほどの大きさのクマが現れた。
おそらく母親熊だろう。
子供が花を食べるのを見ている。
「ボク花が食べた~い!」
と騒いだ子供を引き連れて、お花畑にやってきたらしい。
パクパク食べる子熊。
それを見守りながら、周りをうろつく母親。
さて、2頭を見つけた私。
初めてのことで、足が止まる。
止まったままでいいのか、頭がフル回転する。
(山の中でクマに出会ったら、絶対走って逃げないこと)
これは守っている。
今のところ、こちらにやってくる気配はない。
だからと言って、私が向かうのは、奴らが食事をしている場所だ。
そこを通らなければ、先へ進めない。
そんな時だった。
後ろから、一人の登山者がやってきた。
おおきなザックを背負い、山中でテント泊をしながら、
羅臼連峰を縦走する猛者だ。
「待ちましょう」
と言いながら、熊鈴をおおきく振りだした。
非常におおきな音がする。
私も、リュックから熊鈴を取り外し、振ってみる。
猛者の鈴が教会の鐘の音であれば、私のは猫の鈴の音量。
(北海道では、おおきな音がする熊鈴がいるのか)
あっちへ行ってくれと願いながら、鳴らしている。
実は、胸の所にとめてあるバックからデジカメを取り出し、
映像のボタンを押し、録画をしていた。
同時に右手で、録音機を取り出し、実況中継もしている。
つまり、映像と音を同時に取った。
その時の喋りをちょっとだけ実況してみよう。
「え~前方にクマの親子が花を食べているようです。
大きさは、大型犬の3~4倍くらいはあるでしょうか・・
色は黒いです。母親とみられる個体が岩の上に登ったり、
渡ったりしてますネ。熊は犬より鼻がいいといいますから、
こっちに気付いているでしょうネ。
クマよけスプレーはリュックの中ですから、
いざとなったら、間に合いませんネ、バカでした。
ヒグマは、時速60キロのスピードで走ると、
ヒグマ漁師の姉崎等さんが「クマにあったらどうするか」の、
本の中で語られていましたから、
この距離は近いと言えますでしょうか・・・」
のんびりとした実況が15分ほどすると、2頭は、
いつのまにかどこかへ消えた。
鈴を鳴らしながら、登山を再開した。
猛者さんによれば、個体のおおきなヒグマは、余裕があるのか、
意味なく人間に襲いかからない、のだそうだ。
とはいえ――
その日の夕方、山を降りた登山口のところで、一人の男性が、
怯えた表情で語ってくれた。
「突然、登山道の上から鹿が、ズド~ンと落ちてきたと思ったら、
続いて、ヒグマがドダ~ンと現れ、こっちを向いて、
鼻息をフゥ~と吹いて、すぐに鹿のほうに向かって、
ドドド~と去っていったんですヨ!」
よほど怖かったのか、擬音を連発していた。
良かったネ、フゥ~で済んで――

クマの子供が食べる黄色い花