最近、テレビの旅番組を見ていると、出演者を追いかけるようなシーンで、カメラのブレが激しく、
見ていると酔いそうになる。
以前はこんなことは、あまりなかった。
決してカメラマンの腕が悪くなったのではない。
なぜだろうか?
原因は――
「カメラが軽くなったから」
以前のカメラは、かなり重かった。
ヨイショと言って、肩に乗せなければならなかった。
ドッコイショと言う人もいた。
今のカメラは、ヒョイとも言う必要もなく片手で持っている。
肩に担げない構造になっている。
軽くなると、当然ブレが激しくなる。
例えるなら、
体重の軽い人は、身体が良く揺れ、
重い人はどっしりと動かないでいる現象に似ている。
あるいは、
軽い船は波に翻弄され、
重い大きな船は、ゆったりと進んでゆくのに似ている。
ドラマでは、まだ大きな撮影カメラを使っているが、
バラエティ番組では、機動性を重視するので、
軽い(一般の方でも扱いやすい)カメラが主流。
すると、軽い方が、カメラマンにとって楽だろうと思うでしょうが、
実は、反対なのだ。
軽いモノを体の前に長い間抱え持って、水平を保つのは難しい。
《水平を保つ》とは、テレビ画面に映った時、
横の線が、常に水平になるように撮るという意味だ。
これができないとプロになれない。
「釣り番組で船に乗って撮影しているカメラマンは、
船酔いしないのですか?」
という質問をされる。
ここに、水平を貫くプロのワザが役に立っている。
荒海でどんなに船が揺れても、常に水平を保とうとしているので、
三半規管が正常に保たれ、酔わないのである。
余談だが、真っ先に酔うのは、《音声さん》。
音を録音するプロは、常にガンマイクを出演者に差し出している。
マイクの方向を出演者の口方向に向けようと努力する。
これは、水平とまったく関係ない。
むしろ、水平も垂直も無視したベクトルを頭に浮かべている。
すると、三半規管がややこしくなり、酔う。
では、出演者はどうなのか?
彼らは、酔ったらみっともないので、
必死で酔わないように我慢している。
それでも我慢の限界はある。
悲惨な場面はテレビで流さないようにしている。
重いカメラを抱えていたカメラマンは、腰痛に悩み、
軽いカメラを持っているカメラマンは、
肘や肩の痛みに悩んでいる。

蔵王のお釜