~~~ 昨日の話の続き ~~~ 羽田空港で、九条ネギ蕎麦を注文した後に、
私は、その隣りの隣にある寿司屋に顔を出す。
この寿司屋は、廻ることなく、きちんとその場で握ってくれる、
いわゆる昔懐かしい寿司屋である。
挨拶も、
「らっしゃい」
「い」を、はぶいて勢いをつけてくれる。
「ンにしゃしょう」
「な」も、はぶいている。
おまかせ握り5カンを注文した。
「ちらで」
「ど」を、はぶいているのは、カウンターで食べるのか、
テーブル席で食べるのかと問うている。
前払いなので、カードを差し出すと――
「そ、はいります」
おそらく・・・「おあい」が、はぶかれている。
握ってくれる時間を惜しんで、蕎麦屋に戻り、
九条ネギ蕎麦を受け取りにいく。
ほどなく、蕎麦ができあがり、後輩で年配の女性に、
チケット差し出すと、
「まことにありがとうございました」
はぶくことのない、ご丁寧な日本語挨拶を受けた。
トレイを持って、寿司屋に戻る。
タイムテーブルは完璧で、寿司屋でも、私の注文が、
カウンターにトンと置かれた時だった。
ふたつのトレイを持って、テーブル席に向かう。
さて、早朝からディナーが始まる。
酒こそないが、ご馳走タイムであることに変わりない。
箸をまずそばつゆに突っ込む。
大量のネギが邪魔して蕎麦にたどりつけない。
そういえば追加注文の、温泉卵も殻を割ってほうりこむ。
蕎麦をひとすすりした所で、寿司を吟味する。
5カン
・マグロ中トロ
・ブリ
・ほたて
・鯵
・マグロ軍艦
アナタならどれから行くだろうか?
まずは白身に近い、ほたてに手をのばす。
こやつは臭みをまったく感じさせずに上品極まりなかった。
まだ口中にほたて酢飯がある段階で、蕎麦を少々。
さて、次はやはりヒカリモノ、鯵だろう。
蕎麦との相性は、間違いなく良いハズ。
日本人が先祖よりつちかった酢飯味の結晶がここにある。
ガブリッ、じゅるじゅる、ズズズズ~
陶酔の時間がゆっくり過ぎる。
ブリは、イナワラクラスのサイズとみた。
出世魚のイナダとワラサの中間のイナワラと呼ばれる、
2,5キロサイズの最も脂の旨味あふれる背中の身。
蕎麦汁に油分がないので、これまた至福のひととき。
さて、ここまで食べてきて、ハタと気づいた。
残ったのは、どちらもマグロである。
中トロか、赤身軍艦か?
もし最後に中トロを食べると、あまりの旨さに、
心残りが生じるやもしれぬ。
飛行機内で、悶絶するやもしれぬ。
そうはさせじと、4番目に中トロをはさんだ。
これは、早朝まだお日様が登らない内に食すものでない。
ここぞという夕暮れ、意を決してとか、腕まくりしてとかの、
覚悟の末に、いただくものだと教えられてきた。
ハタと気づけば、周りには、サラリーマンや観光客が、
わいわいとひしめいている。
寿司と蕎麦を家来にして、
テーブルにがっつりしている人は、いない。
よもや、その口元に、マグロの中トロを運んでいる様は、
狼藉者以外のなにものでもない。
遊蕩者と言われても、返せない。
つまようじを取りに板さんの所に行ったら、
「どぅりぃした」
「どうもありがとうございました」の究極の短縮形をいただいた。
魚はスピードが命である。
やはり寿司屋はこうでなくっちゃ!