天狗岳へ
《歩荷》と書いて、ボッカと読む。荷物を担いで歩くので、そう呼ばれる。
いまでは、この言葉は、山の中でしか使われない。
主に、山小屋に重い荷物を運ぶ為の行為となっている。
運ぶ行為を、ボッカと呼ぶし、運ぶ人のことを、
ボッカと言う場合もある。
敬意をこめて、「ボッカさん」と呼ぶ時も多い。
最近は、さんづけが通り名となっている。
歩荷を見たことがないという登山者も多い。
歩荷が歩く道は、登山道と違う場合もある。
なんせ30~80キロという大きな荷物なのだから、
背負い子(しょいこ)で担いでいる。
狭い登山道だと、登山者に邪魔とも言える。
そこで、山小屋への最短距離の専用道を辿る場合もある。
その道がのちに、《〇〇新道》という名前が付けられ、
正式な道になったりする。
「そんな荷物ヘリコプターであげればいいジャン」
というジャンさんの意見は、ある意味正しい。
しかし、ヘリの値段は、びっくりするほど高い。
その上、昨今、ヘリのパイロット不足で、そうそう頼めない。
さらに、山の天候はヘリが飛ぶのに向いていない。
一瞬の晴れの日を狙って、たくさんの山小屋から一斉に、
荷揚げ要求がくる。
時折、山の中でヘリコプターの爆音が、一日中鳴り響いているのは、
そういう訳だ。
いったいいつ休むのかと思えるほどの長い時間のフライトだ。
ごくろう様なのです。
で、やっぱり人力に頼ることになる。
特に生鮮野菜は長持ちしないので、ボッカしかない。
つまりボクらが街で当たり前に食べている、
ネギ、キャベツ、白菜など、
それらは、ボッカなくして食べられない。
果物など超のつく贅沢品だ。
ビタミン不足に泣く。
もし山小屋の食事に、生卵が出されていたら、ボッカさんに、
両手を合わせた方がいい。
「よくぞ、割らずに!」
(卵料理の出る山小屋はあるが、生卵が食べられる山小屋は、
ほとんどない)
歩荷で思い浮かぶのは、やはりあそこだろう・・・
尾瀬――
それは、また明日