「犬のしょんべんのようなヌルい味噌汁が飲めるかい!」江戸っ子を自認するジイさまが、口から泡をとばしている。
味噌汁を犬のションベンに例えているのは、どうかと思うのだが、
ジイさまは、チョビチョビしたモノも嫌いらしい。
味噌汁は熱い方がうまい。
それは江戸っ子でない私でも理解できる。
江戸っ子でもないし、猫舌でもあるのに、熱い味噌汁を好み、
年に一回くらい舌をやけどしている。
「おれ、猫舌なんだよ」
思い出したかのように反省している。
特に、味噌汁の中に入っている里いもが危険。
あやつは、熱をため込むのを得意としている。
放熱思考がまったくない。
味噌汁が冷めた頃にも、芯のあたりには、
まだマグマをため込んでいる。
汁の中からすくいだし、口元で冷めた感触を確かめて、
ガブリとやると、芯はまだ現役だったりする。
「ぎゃあ~」
猫舌とは、舌だけでなく、《猫歯茎》でもある事実を発見する。
そして、舌の場合は、すぐに吐き出せば、なんとかなるが、
歯茎に関しては、歯茎のすきまに入り込んだイモの粘りは、
吐き出しても、すぐに出てこない。
爪楊枝とか歯ブラシとかを動員しないと、かきだせない。
秒を惜しんでいる時に、洗面所に走ってゆく余裕はない。
里いもは、味噌汁の隠しマグマの代表である。
煮っころがしに特化する心得を持ってもらいたい。
ただし、煮っころがしを電子レンジでチンするのは、
味噌汁と同じ理由で、却下してもらいたい。
味噌汁以上に、噴火寸前のマグマと化す。
里いもは、地球のプレートニクス理論を学んだ方がいい。
フィリピンプレートや太平洋プレートのもぐりこみによって、
生じる熱の仕組みをしっかり学んでから、チンしましょう。
そして、おもいっきりチンした場合は、
きっかり5分以上たってから恐る恐る歯をたててみましょう。
南海トラフの下には、まだ極熱のマグマが潜んでいるかもしれません。
最悪に備えて、氷みずのグラスを横に置いて、
警戒警報の発令を聞きましょう。