
《
マテガイ》
昨日、魚屋と飲み屋のおやじの話をした。
時折ふと、そのどちらもやってみたくなる。
魚屋は、仕入れの問題があるので、そうそう簡単にできない。
そこで、飲み屋はどうだろう?
友人ファミリー限定で、ひらいたらどうだろう。
かなりいい加減な気持ちで、簡易飲み屋をひらく。
なぜ、飲み屋という名前を借りるのだろうか。
もちろん無料なのだが、お客は、
「お土産を持って来ない」という約束をしてもらう。
ただし、飲み物だけは、ご自分の分を持参する。
ビールひとつにしても嗜好があるので、そうしている。
その上で、自分が飲む分だけ持ってきてもらう。
理由は、あとで。
我が飲み屋の主流は、魚料理となる。
特に、刺身に特化している。
行きつけの魚屋4軒の中から、厳選したピチピチ魚を、
仕入れ、さばき、数種類の刺身としてお出しする。
捕れた翌日に食べた方が旨い魚は、前日に仕入れる。
青魚系は当日。
あるいは活きたまま仕入れ、〆る。
この飲み屋の特徴は、主人が一緒に呑むという点。
飲み屋のおやじが、カウンターの向こうで、
客からふるまわれたビールを、
「いただきま~す」と持ちあげる姿を目にするが、
この飲み屋では、
乾杯の音頭さえとって、グラスを同時に持ちあげる。
「まずは、毒見」
などと言って、積極的に刺身に箸をのばす。
それでも、殊勝なのは、途中でなんども席を立ち、
台所で何かを始める。
吸い物をつくったり、焼き物、蒸し物、揚げ物を、
順次、お出しする。
もちろんサラダは、最初に盛り付けてある。
言い忘れたが、飲み屋定番の付きだしも出されてある。
この飲み屋の最近の特徴は、お客は、
主人のピアノ演奏を聴かなければならない。
それがイヤな人は、墨絵が、リビングや階段や玄関に、
ギャラリーとして飾られているので、
鑑賞してまわらなくてはならない。
一応礼儀として、
「まあ、ご立派なできですこと」
途中でグダグダになる演奏を含めて、
賛辞を述べなくてはならない。
すると、水族館のイルカショーと同じで、
さらなるエサ、(失礼)
料理を出してもらえる。
お土産もしっかり付いてくる。
主人が出版した本を、4冊の中から選んで持ち帰らせてくれる。
重たいので持ち帰りたくなくても、
大事にカバンにしまう振りをしなければならない。
ある意味、注文の多い料理店である。
そうそう、持ち込んだビールなどの類いは、
基本的に置いて帰らない。
残すと、冷蔵庫が満杯になってしまう。
やっぱり注文が多い。
それでも、刺身の魅力に誘われて、足しげく通う人もいる。
そういう方の為に、冷蔵庫のひと隅に、
飲み物専用のコーナーを設け、
「キープ」という考え方も導入している。
最後に――予約は受け付けておりません。
すべて、店側の予定に合わせてもらってます。
マテガイの炒め物