え~ちょいとバカバカしいお話にお付き合いねがいます。江戸は新宿の駅から、ぶらぶら歩きますってぇと、
昔から続いている飲み屋街がございまして、
真ん中あたりに、名前をゴチャゴチャ書いた、
看板がかかっている日本家屋がドデンと現れますんですな。
林家だの三遊亭だのの屋号のようなものの上に、
漢字が書かれており、どこかで聞いたような古めかしい名前。
末廣亭(すえひろてい)という名前の落語の寄席なんですな。
わたしども噺家が、高座という名の高い場所から、座布団一枚で、
お客様とやり取りして、お涙を頂戴するという、
ありがたい場所でございます。
いっぺぇやりに行くサラリーマンの方が、ちょいと足を止めて、
中に入り、さほど高くない木戸銭を払いますってぇと、
もうすでに、どっと笑いの渦!
っと申し上げたいところですが、そうそう席が満杯になることはなく、
パラパラとお座りいただいているご年配の方が、時折、
「フンゲッ」
早めにアチラの世界に踏み込んでいたんでしょうかネ、息を吹き返して、
ビックリされている様子をコチラが楽しんでいる次第でございます。
まあ、お亡くなりになってなかっただけでも、良かった良かった。
さてと、皆さまがそのうちココを出ますってぇと、
もう夜の帳りがグラリと落ちて、街の灯りが、こらまた賑やかになります。
二階建ての古い町並みが、通り過ぎなど許すまじと、
手をこまねいて誘うんですねぇ~
いやいや、今夜は早く帰らねばと意気込む旦那衆の、
薄くなって掴めない後ろ髪をむんずと掴んで、
店の中に引きずりこむんですなぁ~
ま、一軒だけ・・・
「ごめんよ」
「あ~ら、いらっしゃ~い、お久しぶりぃ」
「ママさん、今日は早いとこ帰るから、一杯だけ」
「あら、忙しいこと、お身体気をつけないと」
「いや、カミさんの誕生日なんでネ」
「うん、もう、ほんじゃ駆けつけで生ビールね」
コトンと置かれた付だしの煮込みに手をつける間もなく、
生ビールがアワアワで登場し、汗を拭きながら、
クオック、グオック、プファ~
あたしゃいつも不思議に思うんですが、一杯といいながら、
一杯で終わった方など見た事ないんですなぁ。
2杯もございやせん、3バイ4バイ、
ちょいと一杯だけのお客様が、最後まで居座っているなど、
この界隈では当たり前でありまして、
ほい、そちらの白髪の美しい叔父様なんぞは、昼頃、
ヒト話しだけと入ってこられたようですが、
もう夕方まで居座られ、ときおりコックリ、時折ガハハと、
さして面白くもない兄さんたち噺家のバカ話に、
歯をガタガタさせておられますネ。
ガタガタさせたあげくに、
身体の外部に、そ奴を外されておられるところなんぞ、
わたくしの話しより、そっちを見られた方が、
よっぽど笑えると思うのですが、(ゴホン)
あ、いや、今ご就寝中ですので、
安心して暴露させてもらっております。
え~わたくしなんぞは、若手と言われ続けて、
もう50は超えてしまいました。
見た目は、20代からほとんど変わっておりませんので、
若手落語家とレッテルを貼られておりますが、カミさんには、
「おじいちゃ~ん、ちょいとぉ、アンタぁ~来られたわヨ」
「おう、なんでぇ~ハッつぁんが来たって?」
話は突然始まるのであります。
こりゃ、ヒト話しでは済みそうにない予感・・・
