《インド料理屋》に時折、むかう。 スパイシーカレーを食べたいのと、ナンが好きだから。
席に通されると、やたら親切な店員が話しかけてくる。
インド料理屋の中でも、本格的な店になればなるほど、
「やたら」度は高くなる。
やたら店員に、まず生ビールを注文し、
《マトンなんたら》を指さす。
マトン(羊)好きなので、カレーもマトンサグカレーを指さす。
しばらくすると、《マトン何たら》がやってくる。
これは、中華で言えば、肉野菜炒めである。
肉は羊なのだが、キャベツらの間に焦げ茶色の塊。
焼き肉屋で、数人で食べている最後に、
遠慮のかたまりとして残された焦げ茶色にそっくり。
「ここまで炒めにチャレンジしてみました」
「ちょっとスマホをいじっていたので、忘れていました」
「レジを打っていたので、つい」
日本的な、柔らかいラムを想像していると、
「肉の元のことは忘れてください」
肉そのものが語っている。
口に放り込むと、強烈な香辛料のかおりに包まれる。
噛みたいのだが、
「歯は大丈夫ですか?」
試されている気分になる。
これは、文化の違いだと承服して、噛み続ける。
やがて、サグカレーが到着する。
《サグ》とはほうれん草のことで、緑色のカレーがやってくる。
食べている最中、口をあけると、舌が緑色になっている。
この中にも、もちろんマトンが入っているのだが、
煮込んでいるので、さほどの堅さはない。
やはり、焼く温度と煮る温度の差があるのだろう。
ここで、先ほどのマトンなんたらの残りを、
カレーの中に投入する。
スプーンでゴチャゴチャにかき回す。
面倒な食べ物を、カレーの濁りの中で誤魔化すやり方だ。
「とりあえず鍋に入れちゃエ」
日本古来の「わけ分からなくする」やり方に似ている。
このおかげで、先ほどの硬さを忘れることができる。
人間の触覚とは、不思議なモノだ。
インドカレーを食べるときは、ラッシーなどの、
シュワッとした甘い飲料が好まれる。
これにならって、ビールのあとに、
メニューのはじっこに書いてある、
《マンゴービール》なるものを頼んでみた。
・・・・・・コレは酒好きは、やめた方がいい。
やたら親切な店員にすすめられても、やめたほうがいい。
ビールとマンゴージュースは別々に飲もう。 食われた木