《バリエーションルート》 登山道には、一般ルートで登るのが、当然。
現代の山登りは、登山道以外は、基本的に登ってはならない。
理由は、山とは、人が歩くことによって、壊れるからだ。
ひとりひとりの足跡は、小さいが、大勢が歩くと、
道は削られ、植生が破壊され、本来の自然が壊れてゆく。
「なにを大げさに!」
と思われるだろうが、たとえば、神社の階段を見ると、
長年の間、人が歩いただけで、激しくすり減っている。
石すら削る人間の足のチカラ――
そこで、登山道が作られ、なるべくそこを外れないようにと、
皆で努力をしている。
さて、ここで、バリエーションルートの話をしよう。
それは、登山道としての整備ができていない山道である。
つまり、危険な道と言える。
日本の山道には、「行ってはいけない」と、
法律で縛られている道はない。
あくまで個人の裁量に任されている。
とはいえ、地図もなかったり、山小屋もなく、逃げ場のない道。
それが、バリエーションルートと呼ばれている。
山に登る人の中で、憧れのバリエーションルートが、
穂高連峰にある。
《西穂高の稜線から、奥穂高岳に至る道》
道と書いたが、崖と言った方が分かりやすい。
こう書けば、「ああ~あそこね」と分かっていただける。
《ジャンダルムルート》
奥穂高岳の南側に、ジャンダルムと呼ばれる岩峰がある。
フランス語で、《憲兵》を意味する山。
奥穂高岳を《守護する者》と考えればよい。
前衛峰というには、あまりにも図体がでかく、
存在が、見るものを震え上がらせるから、そう言われる。
「あそこに行ってみたい」
穂高連峰に登ったことがある登山者なら、誰もが憧れる。
あの上に立ってみたい。
あの上には、天使が水を撒く何かがあるらしい。
らしいらしいばかりの情報しかないルートとも言えよう。
さあ、行こう!
20年来、あたためてきた計画が動き出した。
岩壁クライム。
機は熟した!
(あんた、年齢的に遅いやろ)
いや、その為の訓練を積んできた。
フリークライミング歴は34年、レッドポイント11,d。
(現在は、10,b)
20キロのザックを背負っての300回のスクワットもこなしてきた。
真夏のランニングは暑かった。
プールも泳ぎまくった。
富士山も最長ルートを登った。
あっちも登り、こっちも登った。
そしてこの夏、お盆の休日を狙って、
新穂高温泉のロープウエイの乗客となった。
~~~つづく~~~西穂高山荘