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独標から西穂高岳へ③
独標から西穂高岳へ③_e0077899_10470201.jpg
 ~~~つづき~~~

 穂高のバリエーションルートを歩き出した。
森林限界を超えた稜線なので、高い樹木はない。
岩と石ころと、ハイマツがあるだけ。
いや、ハイマツすら見かけなくなった。
 まだ夜は明けていない。
東の空にオリオン座、その横に明けの明星が輝いている。
お日様が登る前に、独標(どっぴょう)まで行けるだろう。
着実に、足を前に出す。

今回の登山靴は軽いモノを選んだ。
なんせ9時間の登ったり下ったり。
靴の重さは、ザックの重さより重要。
コハゼの少ない、重量500グラムほどの使い込んだ岩用。
《岩用》とは、底がやや柔らかく、滑りにくい。
斜めになった岩にも吸い付くような仕様である。
 デメリットは、足首が包まれていないので、
下りなどで捻挫しないように気を付けなければならない。
(はい、気を付けます)
自分に言い聞かせる。
ココから先は、空気が薄くなるので、
しっかり呼吸しなければならない。
 (はい、吸います)
言い聞かせる。

30分ほどで、丸山を過ぎ、スタートから1時間半で、
独標(どっぴょう)に着いた。
どっぴょうとは、独立標高点のことなのだが、
意味は、うまく説明できない。
山のところどころにある。
しかし、ここの独標が日本では最も有名である。
そういう意味では、《ジャンダルム》という名前も、
日本の他の山にもある。
しかし、ここのジャンダルムがあまりにも有名なので、
ジャンダルム=穂高連峰との代名詞となっている。

この独標には、悲しい歴史がある。
1967年8月1日。
松本深志高校2年生の登山チームが、この独標で落雷を受け、
46人中、11人の生徒が亡くなった。
私とほぼ同年代の生徒たちであった。
その碑のプレートが、ひっそりと置かれてある。
カミナリは、明日は我が身である。
そっと手を合わせる。
ここで、夜が明けた。
ヘッドランプをザックにしまう。

さあ、ここからが本番だ。
ガイドの棚橋さんにロープの端を渡され、
エイトノット(8の字結び)で、自分の腰のハーネスに結ぶ。
《アンザイレン》
いわゆる、ザイルパートナー。
お互いの命を助け合う二人となる。
ただし、国際山岳ガイドと私では、レベルが、
大人と小学生ほども違う。
助け合うというより、一方的に助けられる関係と言うのが正しい。
とはいえ、片方が落下すれば、道連れになるので、
細心の注意が必要。
大人と子供でも助け合うのは、同様と考える。

いよいよ登ったり下ったりが始まった。
なんせ、西穂高岳までだけでも、10のピークがある。
なんと数字がそれぞれのピークに白ペンキで書いてある。
10から減ってゆく。
ひとつひとつ少なくなる数字を感じて嬉しい人もいる。
だが私の場合、いちいち知らされるのは、窮屈に感じる。
随分頑張ったのに、まだ3つしか超えていないと知らされる。
しかしこれは、迷ったり、疲れたりした時に、
引き返す判断のよりどころにするのだろう。
ルート途中の西穂高岳までの往復計画の場合、
「今、6つ目だ、帰りも同じ登ったり下ったり、
 ダメなら、ここで断念しよう」
自分の体力の目安を知らせてくれる数字。

今回の水は、ペットボトルではなく、胸の所に、
柔らかい水用パックを差して、手を使わずに飲めるシステム。
口で、ノブを引っ張り、チュウと吸えば水が出てくる。
この方式の方が、水をこまめに飲めるだけでなく、
水の消費量が少なくてすむ。
水も、経口補水液にした。
単なる水より体への吸収が良い。
 とにかくこのルートは、いちいちザックを下ろしているヒマがない。
常に動いていないと、時間内にたどり着かない。
水飲み休憩を減らすという、慌ただしさ。

数字が分からなくなった頃、西穂高岳のピークに着いた。
2909m
 私はなぜか、2900mを越えると、高山病の兆しが出る。
体内に何かのセンサーがあるらしく、頭がチクリと痛くなる。
 「はは~ん2900mを越えたな」
標高を知らなくても、頭の痛みが教えてくれる。
便利といえば便利だが、要らない頭痛でもある。

西穂の山頂でやっとザックをおろし、携行食を出す。
ひとくちヨーカン。
袋が簡単に千切れ、片手ですぐに食べられる。
甘味とカロリーがあり、エネルギーに変えてくれる。
(と信じている)
普段カロリーを減らす努力をしているダイエット人間は、
カロリーの多い物を積極的に食べて良い山登りは、嬉しい。
許されることならば、西穂山頂で、
カツ丼と豚骨ラーメンを食べたい!
ショートケーキに生クリームパフェもつけたい。

そんな不埒なことを考えていたら、見上げた雲が、
灰色になってきた。
先ほどまでの白いパフェ状態ではなく、暗雲がたれこめる。
(雨がくるかな)

さて、このルートは、ここからが本番となる。
ここまでは、バリエーションルートではない。
標識が、立っている。
「ココから先は、大変危険なので、岸壁登攀熟練者のみ」
という意味のことが書かれてある。
標識の先は、いきなり崖をまっさかさまに降りる。

~~~つづく~~~
独標から西穂高岳へ③_e0077899_10472966.jpg


by ishimaru_ken | 2023-09-23 05:46 | スポーツ
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石丸謙二郎
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