~~~つづき~~~
西穂岳から奥穂高岳に至るバリエーションルート。
2人のシステムはこうだ。
登る時は、棚橋ガイドが先に進み、
下る時は、私が先に降りる。
何かあった時に、私を上からロープで確保する為である。
何か・・とは、滑落。
バリエーションルートとは、あまり人が入っていないという意味。
つまり整備されていないと言える。
すると、どうなる。
《浮石》うきいし
浮石というと、足で踏んだ石や岩がグラグラするのが、
普通のルート上でのこと。
ところが、ここでの浮石は、ホールドでも起こる。
手で掴んで降りている最中に、その石が動く。
ヘタすると、外れる。
こんな怖いことはない。
クライミングでは、手で掴んだ岩を頼りに動く。
特に、下りでは、岩にぶら下がる瞬間もある。
その岩が、ボコリと取れたらどうなる?
落ちる。
この一帯は、板状になった岩盤が重なっている。
手で掴むには持ちやすい。
しかし、板状という事は、「剥がれる」現象がおこる。
時には、板と板の間にある、
もう一枚の板を掴んで引っ張ってみたら、
ズボッと抜けた。
慌てて、元にそっと差し込んだ。
では、どうするのか?
ひとつひとつ確かめながら掴み、体重をかける。
ズボッとか、ボコリッとかの表現を使わなくていいように、
最大限の神経を張りつめる。
良いことに、バリエーションルートとはいえ、
年間、ある程度の人が通っている。
浮石は少なくはなっている。
とはいえ、少しでもルートを外れると、
「待ってました」とばかり、浮石地獄となる。
ロープで確保されていなければ、どんなに心細いか――
そのロープで繋がっているのだが、もし私が落下したらどうなる。
上でロープを体にまき、手でも持っている棚橋さんは、
グっとこらえて支えることになる。
しかし、ザックを含め70キロ以上の重さを、
そう簡単に支えられるだろうか?
質問してみた。
「もし僕が崖から落ちたらどうなります?」
「わたしが、崖の反対側にとびます」
意味が理解できただろうか?
岩を境にして反対側に彼がぶら下がり、
その体重で私の落下を防ぐというのだ。
言うのは簡単だが、じっさい咄嗟に崖から、
とび出せるのだろうか?
「つねに訓練してます」
だそうだ、すごいな!
~~~つづく~~~