突然、ホッピーにはまった。 ホッピーとは、吉田類の酒場放浪記に頻繁に登場する、
酒類である。
「ホッピー下さい」
注文すると、ビールジョッキに氷と焼酎が入っており、
瓶のホッピーが出てくる。
ホップで作られた泡の出る飲料である。
アルコールはほんの少しだけ入っている。
自分で好きなだけ注ぎ、焼酎かホッピーどちらかが無くなれば、
「中(なか)ください」 焼酎のこと
「外(そと)ください」 ホッピーのこと
を追加注文する。
「外、黒(くろ)」
といえば、ビターホッピーがやってくる。
ほろ甘にがい。
50年ほど前、新宿のションベン横丁などの安酒場で、
役者仲間と呑んでいた頃、
酒の味が好きでなかった私は、安いということだけで、
ホッピーを注文した。
もちろん周りの皆も、ホッピー。
ビールすら旨いと思わなかった頃なので、
ホッピーも旨いとは思わなかった。
酒場で最も安くて量の多いモノを飲んでいただけだった。
ゆえに、ホッピーに対する想い出が悪かった。
さて、今年、ホッピーの出どころと言われている、
神奈川県の横須賀で、友人らと呑む機会があった。
それぞれが、なぜかホッピーをたのむ。
自分だけ焼酎の水割り。
そこで、試しに皆のマネをしてみた。
すると・・・・
「おお、旨いではないか!」
刺身だの肉豆腐だの、酒のつまみにも合う。
いわゆるオールマイティの飲みものだと気づいた。
さあ、それからである。
晩酌がホッピーに傾いた。
なんたって、暑い夏、ビールを飲みたい。
しかし、ビールばかり飲んでいられない。
ホッピーという飲み物は、その昔、ビール代わりで、
ビールより安いと言われてきた。
焼酎の量だけ調整すれば、しっかりアルコール度数もある。
ホップが適度なシュワシュワ感を出し、
暑い夏には最適となる。
炭酸のような泡の出る飲み物が苦手な私でも、
このシュワシュワは気持ちがいい。
ゲップが出ない泡の出方。
これは、炭酸ではなく、ホップのおかげと思える。
さて問題は、イメージである。
どうしても、安酒場のイメージから抜け出せない。
安酒場好きな私としては、構わないのだが、
たとえば、結婚式の席で、ホッピーは出して貰えない。
っと、ここで、40年前を思い起こしてみよう。
当時、焼酎は、安酒場の代名詞であった。
当然、結婚式の会場に、焼酎は無かった。
まちがっても置いてなかった。
テレビドラマで、「職を失くして意気消沈のオヤジ」
を表現するとき、
ちゃぶ台の横でオヤジがイビキをたてており、
その隣りに焼酎の一升瓶が転がっていた。
なぜか日本酒でもウイスキーでもなかった。
それが、ある時から、ガラリとイメージチェンジしたのである。
焼酎の安さと広範囲の適応に、酒飲みが惚れた。
世の中に、焼酎が氾濫したのは、あっという間だった。
銀座の高級クラブに焼酎のボトルが並ぶようになった。
つまり、安酒場から、高級店まで焼酎が席巻したのである。
ここで今、目をホッピーに向けてみよう。
この飲み物の表記を見ると、
・低カロリー
・低糖質
・プリン体ゼロ
飲んでよい飲み物が極端に制限されているオジサマ達が、
泣いて喜びそうな文言ばかり。
いまや、日本中のスーパーでホッピーを目にする。
コンビニにも置いてある。
知らなかった方は、私同様、目に入っていなかっただけなのだ。
まだ爆発前夜であるが、
皆がホッピーの良さに気づけば、
焼酎文化が生まれたように、
あらたな文化が生まれるかもしれない。
もっとも、これまでずっとホッピーに親しんできた方は、
口を尖らせられるだろう。
「な~にを いまさらぁ」 新宿飲み屋街にある末廣亭