風邪をひいたらしい。
らしいと言うのは、20年近く風邪をひいた記憶がないので、
風邪の症状が自覚できなくなっている。
頭は痛くないのだが、なんかやる気がない。
その辺に横たわりたくなる。
どうもおかしいので、体温計で測ってみたら、
37度を超えているではないか!
測り直すたびに、0,1度づつあがってゆく。
えっ、インフル?
まさか、コロナ?
幸い休みの日だ。
すぐに、市販の風邪薬を飲んで、ふとんにもぐりこむ。
キューと眠り、10時間後、目が覚めた。
風邪が去ってゆくときの、爽やかな風が感じられた。
良かった、治った。
素早い治りである。
その昔、風邪をひいた時、必ず悪夢に襲われた。
当時舞台ばかりやっていた頃で、
悪夢は舞台と直結していた。
突然、私は観客の前に立ち、舞台でお芝居をしている。
ところが、セリフがまったく分からない。
周りの役者はペラペラと喋っているというのに、
私だけ、セリフを覚えていない。
ええ~本番が始まってるぅ~
そのうち、ついに私のセリフの番がやってきた。
とりあえず、即興で何かしゃべる。
何とかやり過ごしたが、すぐにまた番になる。
どんどん、デタラメを喋る。
やがて、観客がざわつきだす。
私だけ変なのがバレているのだ。
そして、この夢は意地悪で、なかなか目を覚まさせてくれない。
あるいは、やはり芝居でこんな悪夢の夜もある。
舞台の本番中、出番が近づいた私は、
楽屋を出て舞台に向かう。
ところが、簡単な道を間違えてしまう。
階段を登るところを、逆に降りてしまう。
あわててドアを開けると、なんとそこは外階段だ。
引き返せばいいのに、あせっているのか、どんどんつき進む。
劇場の周りをグルっと回って、入り口を見つけようとする。
すると信号機が赤に変わり、待っていられないので、
タクシーに乗り込む。
「急いでください!」運転手さんを急かす。
かくして、舞台にたどり着かないのである。
この悪夢も、意地悪で、延々続くのである。
トゥービー・コンティニューなんて文字が出たりする。
悪夢のくせに、ふざけている。
夢を見ている本人が、普段からふざけているので、
その仕返しらしい。
そして、ビッショリ汗をかいて目が覚める。
その瞬間、風邪のナニモノかが、スッ―と離れてゆく。
憑物が離れるとは、このことを言うのだろうか。
《毒をもって毒を制す》という言葉がある。
悪夢を見せることによって、高熱を奪い取ってゆく。
人間の身体は、バランスを保つようにできているらしい。
でも、夢を見ている間は、それを夢とは分からないのだから、
あんまり怖い夢は見せんといてネ・・・