先日、おおきな太刀魚を釣り上げた。 勢いとは不思議なもので、またしても海の上にいた。
季節は、夏から秋へ、いや冬も近づいている。
北風がそれなりの強さになり始めている。
風が強くなれば、波が大きくなる。
2馬力エンジンの小舟は揺れる。
ハネる。
朝陽が紅蓮の炎を噴き出すかのように、
海に赤々と道をつくっている。
釣り方は、ジギングだ。
重い疑似餌を海底まで沈め、グイグイと躍らせ、
引き上げながら、
魚にとって、魅力的な動き(尻振り)をさせる。
水深は、20~40mほど。
ガツン!
ものすごい引ったくりの衝撃が竿に伝わる。
竿はグニャリと曲がり、かかった魚が、遠くに向かって逃げる。
つっぱしる。
リールを巻こうとするのだが、
ギャ~~~ンと、音を立てながら、リールが逆回転する。
ドラッグを絞める。
力いっぱい巻くのだが、必死で逃げる魚は、命がけだ。
「この引き方は、ワラサだな」
秋の時期、ブリの青年魚ワラサが回遊している。
ブリは出世魚、関東では、
モジャコ
ワカシ
イナダ
ワラサ(3キロ~6キロ)
ブリ
旨さでは、ワラサが一番と言われる。
飲み屋のお品書きでも、値段が破格だ。
サワラ(鰆)と間違われるワラサ。
どちらも回遊魚なのでややこしい。
《魚は一晩寝かせてから》
が旨いと言われる。
しかし、釣りたてはコリコリして、やはり味わいは格別!
5分の格闘後、海面にキラリと黄緑色の魚体を見せたのは、
3キロのワラサ。
関西ではメジロと言われる美しい色形をしている。
小鳥のメジロによく似た色だ。
シイラにも似ている。
釣りというものは、魚を船にとりこむ瞬間が、
最大のクライマックスとなる。
それは、これまで何度も経験した、悲しい出来事があるからだ。
「針が外れる」
タモで掬おうとする瞬間に、魚が首を振り、針が外れ、
魚体をくねらせ、海の底に向かって逃げてゆく。
すると、誰もが大きな声を出す。
「うわぁ~外れたあ~!!」
その落胆さは、はかり知れない。
まるで・・・
カードがたくさん入った財布を落とした時のようなショックに襲われる。
あるいは、スマホをプールに落とした時と言ってもいい。
わざわざ列車に乗って訊ねた蕎麦屋が休みだった時にも似ている。
しばしガックリ、肩も首も薄くなった髪の毛も落とし、
湧き上がった興奮のやり場のなさにオロオロする。
ゆえに、見事船の上に魚をとりこんだ時の嬉しさは、
格別なのだ。
日本に魚がいる海がある幸せを、あらためて感謝したい。