スポーツをテレビで観ている。のめりこむように観ている。
すると、自分の身体が、激しく動いていることに気づく。
その動きは、競技の種類によって異なっている。
たとえば――
《卓球》
この競技は、インターバル競技であることが分かる。
インターバルとは、休憩時間があるという意味だ。
チカラを入れている時間より、
チカラを入れていない時間の方が圧倒的に長い。
これは選手だけの状態ではない。
観ている側も同様に、インターバルをとっている。
と、いうことは、いざ、ゲームが始まるサーブが近づくと、
テレビの前で、息をとめる。
息をとめれば瞬きがとまる。
ラケットにボールが当たれば、
1秒以内に決着がつくかもしれない。
っと、ここまではいい。
「息をとめる」という静かな行為にすぎない。
問題は、このあとだ。
なぜか、私は観戦中に防御側の立場にたっているらしい。
言い方を変えると、スマッシュを受ける側である。
特に、フォアで受けるのではなく、
ラケットの裏側で受ける選手となっている。
ここで、ラケットの持ち方を思い出してみよう。
われら素人は、ラケットをお箸を持つ持ち方をしている。
対し、現代の選手は、テニスの持ち方をしている。
われらは、ラケットの裏側を使わない。
対し、選手は使う。
テレビを観ている時が、夕方の食事時だった場合、
いろんな問題が起こる。
敵がスマッシュを打ってきた!
反射的に、胸の前でラケットを返す。
ドサッ!
ん・・・?
テーブルの上に、お刺身が落ちている。
それも、50センチほど遠くに落ちている。
どうやら、サーブの前にブリの刺身をハシでつまんだようだ。
それを持ち上げ、口に運ぼうとした瞬間に、
相手がスマッシュを放った。
私の(意味のない)反射神経が、活動を指令された。
手首をクイッとかえす。
反動で、つかんでいたブリが、すっ飛んでいった。
しばらく点が行ったり来たりしている内に、
ゲームポイントが来た。
次のポイントをどちらが取るか?
こちらのサーブだ。
コツン
ボールが相手テーブルに入った途端、
リターンスマッシュがさく裂する。
こちらの右側の端っこ目がけて斜めに打ってきた。
とっさに、右手を思いっきり伸ばす。
ガシャンッ!
醤油の瓶が転げた。
ハシが突き刺さったのである。
ゴボゴボゴボ
液体がテーブルに流れている。
ピッ
テレビでは、選手が天を仰いでいる。
私も天井の蛍光灯を仰いでいる。
(意味のない)、カッコでくくった言葉が、
スポーツ観戦時に、意味なく発揮される。
動くまいと思っても、
カッケの検査に医者がわれらの膝の下をコンッと打つように、
反射神経というヤツは、意味のない仕事をする。
卓球観戦は、食事時はやめた方が賢明であります。