新月の真夜中、海で泳いだらどうなる?月がないという事は、真っ暗闇である。
そんな時に、わざわざ海で泳ぐとは!
与論島(よろんじま)の正月の三が日に、
《いざり》なる遊びがある。
真夜中に、潮がものすごくひく日がある。
干潮が、一年で最もひく日である。
それが、真夜中にくる。
すると、どうなる?
サンゴ礁の島には、島の周りに環礁(リーフ)が取り囲んでいる。
荒波をすべて、防波堤よろしく防御し、
リーフの内側に、静かなプールをつくりだす。
そこは、500mほどの長さのリーフがあった。
干潮時に長大な歩ける道ができる。
島民は岸から歩いて、そこに行き、貝を拾ったりする。
《いざり》の夜中、シュノーケルに足ヒレを付けた私が、
ビーチから泳ぎ出した。
水深は、30センチ~1,5m
足が付く水深である。
歩いても行けるが、泳いだ方がリーフに速くたどりつく。
だから、泳いだ。
暫くして、顔をあげてみる。
アレッ?
方角が違う。
空を見れば、天の川が流れている。
新月なので、月がない。
満天の星空が、リーフの上にひろがっている。
北極星を探し、北を見つける。
よし、北に向かおう!
しばらく泳いだところで、再び、顔をあげる。
アレレっ?
方角が違う。
たかが10分泳いだだけなのに、
まったく違う方角に来てしまった。
北極星を又しても定め、方角を決め、泳ぎ出す。
次は、5分で顔をあげた。
アレレレレッ?
おかしい?
方角が90度間違っている。
ビーチを出発して小一時間が過ぎた。
潮が満ちはじめ、これ以上徘徊すると、
遭難する恐れがある。
しかたなく、ビーチめがけて泳ぎ出す。
顔をあげる。
アレレレレレレレ
ビーチから離れているじゃないか!
その後は外灯をめざし、ずっと顔をあげて泳ぎ続け、
ほうほうのていで、帰り着いたのであった。
どうやら、暗闇で泳いでいると、
グルグル同じところを回っているらしい。
これは、山の中の遭難では、こう言われている。
《リングワンダリング》
――霧の中で人が方向感覚を失い、無意識のうちに、
円を描くように、同一地点を彷徨い歩くことをいう――
おもしろい学説だ。
方向感覚を失っていることを自覚していればよいが、
私の場合で分かるように、自信に満ちている人は、
間違いを認めないおバカさんでもある。
「オレについて来い!」
ほとんどのシーンは、それでオッケーだが、
肝心な時に遭難では、困る。
まず、暗闇で泳ぐのはやめましょう。