昨日、月のない深夜に海で泳ぐ話をしたら、 「そんなことしていいんですか?」
友人から、眉間にシワをよせたお便りがきた。
「いい訳がない」
昨日のリングワンダリングで分かるように、遭難する。
実は、それより以前、今から25年ほど前、
与論島の正月の真夜中に、ビーチに私と、
与論島の若者(セイさん)がいた。
彼は、漁師といってよい人物で、子供の頃から、
《いざり》の夜、むき出しになったリーフまで泳ぎわたり、
貝と捕ったり、魚をモリで突いたりして、遊んでいたのである。
その話しを聞いた私が、連れて行ってくれと請うた。
しかして、ダイビングスーツに身を包み、
シュノーケルと足ヒレ、腰から伸びたヒモの先に、
ハッポースチロールの箱(捕れた獲物入れ)でビーチにいた。
毎年、1月2日の真夜中に、一年で最も潮がひく時がくる。
普段は、波がたつだけで、まったく見えないリーフ(環礁)の、
サンゴ礁の名残りが、壁となってむき出しになる。
そこは、ただの岸壁ではない。
マンションのような構造になっている。
幅が30mほどで、一枚岩ではなく、いくつもの穴が、
スジのように開けられている。
その中のひとつに潜ってみると、底の白砂まで、
5mほどの水深があり、魚たちが眠っている。
リーフとは、普段は大きな波がたち、荒れ狂う場所なのだが、
《いざり》の時だけは、静かなマンションの一室を造り出している。
この時も、泳ぎ渡った二人の足元に、穴がいくつもあいていた。
早速、潜る。
腰にはダイビング用の重りを4キロ。
水中ライトを左手に持ち、右手には、モリ。
素潜りなので、息が続くかぎりとなる。
ドブンっ
新月の夜の水中は、暗いのかと思いきや、
灯りに照らされたソコは、明るかった。
貝はゴロゴロ転がっていたが、それには目もくれず、
魚を探す。
カワハギが何匹も群れている。
目の前に、《ヤガラ》が現れた。
1mほどのビヨ~ンと長い身体をもち、
頭部が半分近くを占めている。
モリは、ゴムで飛び出す式である。
プシュッ
簡単に突けた。
ハッポースチロールの箱に入らないので、ヒモを頭部に通して、
腰にぶら下げる。
前方でセイさんが、底まで潜っている。
それに続く、すると――
壁のようになった岩々の隙間に、魚が眠っている。
刹那、セイさんのモリが突き出された。
モリをたぐり寄せると、大きな赤い魚が体をくねらせている。
(アカミーバイだと教えてくれる)
この魚は、もう一匹必ずいると言うので、近くを見回す。
(いた!)
私の出番だ。
モリのゴムを弾きしぼり、そぉ~と近づき、目標を定めていると、
急に胸が苦しくなった。
息が無くなったのである。
慌てて浮上する。
海面からとび出してみると、空には、満点の天の川。
冬の天の川は、キンとして美しい。
ガバぁ~
隣に、セイさんが浮かび上がってきた。
モリには、二匹目のアカミーバイが刺さっている。
どちらも、60センチを超える大型。
その後、カワハギもしとめ、陸を目指して泳ぎかえった。
セイさんは、リングワンダリングに陥らなかった。
行きたい所に、泳ぎ渡った。
子供の頃から、ここで泳いでいるので方角が分かるらしい。
夜中に、アカミーバイの鍋を約束して、サヨナラをした。
翌日、彼の家にご相伴に訊ねた。
「あれっ?アカミーバイは?」
実は、彼のお母さんは与論島で魚屋をやっており、
おおきなアカミーバイをそこの冷蔵庫に並べておいたらしい。
そしたら、観光客が、いい値をつけて買ってしまったと、
言うではないか。
そんなで、ヤガラ鍋になったとサ。