六角精児という役者がいる。 《呑み鉄本線・日本旅》NHKBS放送の番組をもっている。
彼とは、30年ほど前に、舞台で共演した仲だ。
舞台というものは、稽古1カ月、本番と地方公演で2~3か月。
都合、3~4か月ほど、一緒に暮らす。
その間、夜は呑んでばかりの日々である。
若さも手伝い、朝まで呑み明かす。
六角(ろっかく)の場合、呑んでも乱れることのない、
いい酒である。
いまでは、彼がギターの名手であることは知られているが、
当時は、知らなかったので、
彼が、飲み屋にそれとなく置いてあるギターを奏でると、
聞き惚れたものだった。
音楽自体の造詣も深すぎて、とんでもない野郎だと感心すらした。
しかもそれを鼻にかけない。
ある時、六角がふと漏らした。
「ボクのオバアチャンが、もう死にたいと言ってるんです」
どうやら、90に近づき、楽しいことがないので、
死にたいと漏らしているらしい。
そこで、私がオバアチャンに伝言を伝えた。
「近かじか富士山が噴火するらしいですヨ」
それを伝えてから、オバアチャンは急に背筋を伸ばすようになり、
生き生きと暮らし始めたらしい。
私は、その後のオバアチャンの話を聞いていない。
どこかで、教えてくれないだろうか?
もちろん、生きておられれば、世界最高年になる訳だから、
すでに鬼籍に入られているだろうオバアチャンの話をぜひ―― 赤イカの刺身