《温泉=卓球台》その昔、このワードは、旅館の必需品的な響きがあった。
言葉をプラスするなら、《浴衣》も加えよう。
温泉宿に泊まり、
「お~い、風呂にはいろう!」
掛け声と共に、浴衣に着替え、
スリッパのパタパタ音、高々にエレベーターのボタンを押す。
向かうは地下の大浴場だ。
当時は、風呂は地下と決まっていた。
現代のように、屋上露天風呂だの、
ゴンドラに乗って大露天風呂だのはない。
フロントに訊ねなくとも、大浴場は地下で湯気をあげていた。
地下に降りてゆくってぇと、
男女のノレンが下がった入り口付近に、
必ずと言っていいほど、卓球台があった。
(60~40年前ほど前の話をしています)
深緑色の卓球台の横には、小箱が置いてあり、
ラケットと真っ白いボール(軟球)が入れられていた。
なにも書かれていなかったが、誰もが、とりあえず触った。
「おぅ」
声をあげる人がいた。
「ほぉ~」
応える人もいて、ラケットを握ってみたり、
球をコンコンしたりしている。
彼らは、温泉に今、浸かったばかりである。
頭から湯気が、ふんわりしている。
温泉とは、やすらぐ為に来ている。
なのに、鼻息が荒くなっている。
「いっちょ、やりますか!」
「その昔ならした」思い出が甦ってくる。
《ならした》ほどの腕前があるのかどうかは、関係ない。
本人の中では、ピンポン玉が非常に激しく飛び交うシーンが、
蘇ってしまっている。
私はこれを、
《卓球台のよみがえり効果》と呼んでいる。
「おれが負けるわけがない」
ピンポンに関しては、一過言、二過言、十過言!
不思議なのだが、彼らは、《卓球台》と呼ぶのに、
する行為は、《ピンポン》と呼ぶ。
だから、当然《ピンポン玉》と呼ぶ。
旅館のスリッパを脱ぎ捨て、裸足になって、
浴衣の袖をまくる。
「いつでも、いいヨ~」
余裕のスタート合図を送る。
ココ~~~ン
ん・・・あらら・・
ラケットの横を玉がすり抜けていった。
目が追いつけなかった。
ココ~~~ン
あれれ、あれれ、今度はラケットに玉が当たらなかった。
「タンマぁ~!」
オジサンは、皆に宣言するのだった。
「おい、まずビールを飲まないか?そのあとで、
本気でやろう!」
ピアノもあるでヨ。