今回の富士登山のやり方はいつもと違う。 あくまでマッターホルンに向けて高度順化をしているので、
標高の高い山小屋に、最低3泊している。
7合目もしくは8合目の山小屋に泊まり、
朝出発すると、頂上を目指し、登り出す。
頂上に到着し、お鉢周りをしたあと、
反対側に降りてゆき、同じく八合目のあたりで足踏みし、
今度は登り返してくる。
再び頂上を通過し、元の小屋に戻ってくる。
連日この繰り返しである。
頂上の売店の方たちが、なんども目の前を過ぎる私を見て、
不思議そうな顔をする。
(また通った)
最初はそういう顔をしているが、
3日目ともなると、
(まだ居るのか)的な顔つきとなっている。
であればいいのだが、
(はは~ん、下界で仕事がなくなったのか)
哀れみの顔といえなくもない。
薄い空気の中を登る登り方が、だんだん分かってきた。
昨年までは、しばらく歩いたら、休んでいたのだが、
今回は、休むのをやめた。
その代わり、ゆっくりでもいいから歩き続ける。
歩きながら、足の疲労を取り去る。
歩きながら溜まる疲労物質の量と、
呼気から排出する疲労物質の量を同じにする作業。
もし、疲労のあまり休んでしまうと、呼吸も少なくなり、
疲労物質が、溜まってしまう。
この状態で改めて歩き出すと、明らかに、
足に、淀んだ疲れがある。
ところが、歩き続けていれば、疲れ感は少ない。
仮に、写真を撮りたくて止まってしまっても、
10~20秒以内に歩き出す。
呼気は、大きく鋭く、「フゥゥゥゥゥゥゥ!」
ロウソクの火を消すような吹き方で出す。
吸う方は意識しない。
足が疲れだしたなと感じたら、この呼吸を頻繁にやる。
すると、疲れが去ってゆく。
水分は、背中から伸びたチューブからスポーツドリンクを。
携行食は、ひと口ようかんと、塩アメ、ミルクキャンディ。
雨が降れば、レインウエアをサッと着る。
風が出て寒くなれば、中に薄いダウンを着こむ。
この間、着替えは1分以内に済ます。
晴れて暑くなれば、それらをサッと脱ぐ。
山では着たり脱いだりを、すばやくこなす。
ザックの中の、どの場所に入れてあるのか、
目をつぶっても瞬時に出せるようにしてある。
とはいえ、おっちょこちょいの私は、今回忘れモノもある。
手袋の予備を忘れ、フリースの帽子も忘れた。
寒くなると、頭と手を温めなければならない。
身体は動いていれば温まるが、頭と手は、そうはいかない。
3776mの高みでは、それは致命傷となりかねない。
忘れ物大将の私は、残念な人間である。
その証拠に、ザックの中から、サングラスが2つ出てきた。
山頂は通過点