
《
イサキの刺身》
海外旅行に行くとなったら、その数日前から、
魚ばかり食べたくなる。
《魚の喰い貯め》的な考えが湧きあがる。
海外でもたいがいなモノは食べられるし、
毎日パンばかりでも、さして問題のない私である。
しかし、刺身という長い間、私を育ててくれた食材から、
しばらく離れる時には、食い貯め思想がどうしても湧いてくる。
「えっ、それは寿司なんじゃないの?」
「えっ、蕎麦じゃないの?」
同じ喰い貯めでも、ヒトによって違う。
「やはり日本酒でしょう」
飲み物に特化する方までいる。
私の場合は、刺身なのである。
では、なぜそんな事をするのだろうか?
理由は――
アチャラでの食を豊かに感じる為なのだ。
肉だのバターだのオリーブオイルだの、
コッテリ系を、もっとコッテリに味わう仕掛けが、
刺し身の喰い貯めという反作用なのである。
であるからして、それが、「蕎麦」でも構わない。
「寿司」でも構わない。
が、シンプルな「刺身」が舌と身体を、
最もフラットに保ってくれると信じている自分がいる。
これまでも、わずか三泊四日の海外旅行でも、
同じことをしていた。
要は、気持ちの問題なので、高尚な意味はない。
海外では、その地のモノを好んで食べる。
日本食の店には行かない。
若い頃には、《粉末醤油》なるモノを持って行ったものだが、
結局、使うことはなかった。
現地の食べ物は、脳にも身体にも刺激を与えてくれる。
現地の料理を食べなければ、
何のために海外に旅行に行くのか分からなくなる。
とりあえず、海外で腹を下したマイナスの思い出はないので、
(いまだに正露丸だけはカバンに入れているが)
ラスト刺身に舌つづみをうつとしましょうか。
《夏イサキに日本酒を添えて》