マッターホルンに登る前に、訓練と、高度順応を兼ねて、この山に登る。
《ブライトホルン》
ブライトとは、丸いという意味らしい。
確かに、この辺りの尖った岩峰ばかりを見ていると、
柔らかいお饅頭のような山頂は逆に惹かれる。
しかも、マッターホルンなどの岩山には、
雪が殆どついていない中で、
ブライトホルンは真っ白に覆われている。
この山が、スイスとイタリアの国境となっている。
今いる、ツェルマットの位置を、分かりやすく表現しよう。
スイスという国の形は、日本の四国に似ている。
四国には、南部に二つの岬がある。
右側が尖った《室戸岬》
左側が、まあるい《潮岬》 しおのみさき
この潮岬にツェルマットの街があると思ってください。
ということは、潮岬の外側の海の部分が、
イタリアなのだ。
さて、話は、空気の薄い登山だ。
4164mの標高の山、ブライトホルン。
これまで私の地球上の最高点が、
3776m
言わずと知れた富士山だ。
そこより、400mは高い。
このあたりの標高の100mづつは、かなり微妙に響く。
しかも、登山口であるスキー場へ、
ゴンドラで一気に到達する仕組みになっている。
そこは、こう呼ばれる。
《クライネマッターホルン》
クライネとは、「小さな」というドイツ語。
観光客でも気軽に行けるし、レストランもある。
標高1600m~3900mへ
高度差、2300mを一気に上がる。
あがった途端、メマイがする。
クラクラする。
レストランでカフェラテを注文し、暫し休憩する。
「さあ、行きましょうか」
国際山岳ガイドの近藤謙司さんが、出発をうながす。
まずは、スキー場のリフト下から歩き出す。
平面移動が始まるのだが、左手に見えている、
ブライトホルンの斜面までの距離感がつかめない。
完全なる真っ白の世界のスロープであり、
サイズが大きすぎて、これまでの距離感が役にたたない。
良いことに、いくつかのグループが先を歩いており、
ゴマ粒より小さな人間が確認できる。
太陽はギラギラと輝き、サングラス無しでは、
目がやられる。
必需品の筆頭がサングラスかもしれない。
そして、今回のルートは、ただ山頂に行くのではなく、
岩峰の縦走も含まれている。
これは、ガイドが本番のマッターホルンを、
エスコートする時の、
登攀者の見定めのテストなのである。
どれくらいの技量と体力があるのか、
試されている。
それを象徴するかのように、
私の腰のハーネスにロープを繋いだ近藤ガイドの、
足取りは速い。
いままで登り歩いてきたどんな山よりも速いスピードで進む。
雪の上を8mほどの間隔で進むのだが、
ロープがたるんだり、引っ張られないように、
常に、一定のスピードを保たなくてはならない。
そして、休憩は全くない状態で、アイゼンを付ける場所に来た。
明日につづく