30年ほど前、愛媛県の松山市の沖合にある島、 《興居島(ごごじま)》にフェリーで渡ったことがあった。
島内を散策していると、家々の表札が気になった。
「石丸」と書かれてある。
次々に、石丸が現れる。
(ルーツはここだったのか?)
1100人あまりが暮らす、果物の島である。
ジャイアンツの西本聖の生まれ故郷でもある。
やがて陽が沈み、島内で時間を過ごし過ぎ、
帰りのフェリーに乗り損ねた。
その日中に、松山市に帰らねばならぬので、懊悩していると、
島の人に、「海上タクシーがあんヨ」と勧められた。
喜び勇んで港に行くと、エンジンをかけた怪しい小舟がある。
船長?の案内で乗り込むと、船室に入れとうながされる。
小さな扉をくぐり、のぞきこむと、すでに3人ほどの客がいる。
薄暗い電球がともり、誰もがうつむいている。
スペースをあけてもらい、座り込んだ。
エンジン音がけたたましく、会話などできない。
やがて、発進するのだが、海は荒れている。
真っ暗な海を波をけたてて進む。
上下にはげしく跳びあがり、とび降りる。
お尻を長椅子に落ち着けることができない。
半分浮かせてほとんどロデオ状態。
皆の顔つきが最初から緊張していたのは、このセイだったのか。
正規の船なのに、感覚的には、《密航船》である。
隠密に航行している様相があり、
松山の港までの暗闇が、ながくながく感じられた。
料金を払う時に、円でいいのかと、
つい考えてしまう。
夜の海上タクシーのヒリヒリのアバンチュールを楽しんだ。
そして、この夏、スイスのツェルマット。
冒頭写真の、《エアタクシー》
山の山頂だの中腹だのから、パラセールのタンデム飛行で、
麓まで降ろしてくれる――らしい。
らしい、というのは、結局利用しなかったからだ。
密航船?は、それなりの面白さはあったが、
エアーとなると、それはそれはスリル満点となるだろう。
私は、タンデムが苦手だ。
これは、他力本願である。
自分で〇〇ができないのは、つまらないし怖い。
たとえば、ジェットコースターは他力本願。
バンジージャンプも他力本願。
だからやりたくない。
当然、《エアタクシー》のタンデム飛行は、他力本願。
こんな怖いことはない。
(飛んだことはないが)自分で飛ぶならば、恐くないのである。
それにしても、エアタクシーとは、よくまあ考え付いて、
営業しているというのは、さすがに山岳の街である。
かのパイロットが、日本においでになられたら、
ぜひ海上タクシーにお乗せしたいものだ。
悲鳴をあげるかどうか・・・