
《
神経ジメした石鯛の刺身》
《魚をシメる》
この表現は、いくつか段階がある。
〆サバとはちと話が違うので誤解のなきように。
数十年前までは、「シメる」と言えば、
瞬間的に、命を奪ってしまうとされた。
人が「食べる」という行為の中で、
魚の苦しみをなるべく最小にする為に、短時間で、
命を奪う行為を、《シメる》と言っている。
さて、魚を釣る。
釣られた魚は、ただでさえ水の中から無理やり、
引き上げられ、酸素過多の空気をパクパクと吸わされる。
それはイカンと言う訳で、海水の入った桶の中で、
暫しの間、泳いでもらう。
身体を休めると言い換えよう。
何が起きたのか、しばし考えてもらうのである。
狭く丸い部屋で、泳ぐのももどかしく、ジッとしていると、
仲間が放り込まれてくる。
「おい、どうなってんだ?」
「わからん」
「おまえ、血が出てるゾ」
「よくわからん」
「とにかく暴れるのはよそう」
「うん」
そうこうするウチに、突然からだを掴まれ、
柔らかいモノの上に寝かせられる。
上目遣いに眺めていると、カギのようなモノが近づいてきて グサリ!
脳天に突き刺さる。
「ホンギャァ~」
気が遠くなる。
残念だが、さかなの生涯が終わる。
ここからが、時間との勝負となる。
すぐに、エラの一部にナイフを差し込みザクリ。
尻尾の辺りにも、ザクリ。
血が噴きだすので、海水の入ったバケツに入れる。
浸透圧と魚の最後のチカラで、
体内の余分な血に出てもらう。
3~4分ほど経ったところで、次なる段階。
《神経ジメ》をする。
真っすぐに伸びた直径2ミリほどの針金を持つ。
曲げても元に戻る針金である。
コレを、魚の頭の鼻のヨコから差し込んでゆく。
(さきほど脳天に刺した穴でよい)
脳天の脳みそを通過し、背骨の中の髄に差し込んでゆく。
入れたり出したりしながら、髄液を壊してゆく。
筋肉繊維が震えだし、ブルブルと振動が伝わる。
一見、残酷に見える神経ジメだが、
魚にとっては、瞬時に亡くなるという意味では、
だんだん亡くなるよりは、安らかであろう。
神経ジメはなぜするのか?
普段、魚屋で売られている魚は、漁師さんが、
網で捕った魚を、自然死させて、その後、
腐敗するのを遅らせて、我々に届けてくれる。
つまり氷水や冷蔵庫で冷やすやり方。
このやり方は、新鮮さをキープしてくれるものの、
筋肉の弾力は維持してくれない。
弾力とは、「噛みごこち」と言い換えてもよい。
刺し身において、噛みごこちは大切だ。
「硬い」のではなく、あくまで「弾力」。
神経ジメをした魚を刺身で食べると、
モグモグ感が増える。
モグのたびに、旨みが増幅される。
私の食べた感じでは、スーパーで売られている魚で、
愛媛産の養殖鯛のサク売りのものは、
神経ジメしているような気がする。