~昨日の続き~
部屋が広い、広すぎて勉強に実が入らない。
100畳間で、受験勉強は無理だ。
成績がどんどん落ちていく。
それなりに、悩みを持っていた、青春だったのだ。
そんなある日、
たくさんあるトイレのひとつに入った。
すると、その大きな壁に、
墨で文字が書き殴られてある。
<
人間 無限の可能性有り>
達筆だ。
書体を見れば、父親が書いたモノだと、すぐにわかった。
けんじろうが、お受験の悩みを抱えている事を
察したのだろう。
ちょっと
照れたワザを使ったようだ。
その壁は、漆喰(しっくい)だった。
真っ白な壁に、行書の文字が美しかった。
それ以来、そのトイレばかり利用していた。
一ヶ月ほど経った頃だ。
父親の会社のおえらいさんが、尋ねてきた。
トイレに入った。
(このお屋敷は、あくまで社宅なのだ)
『落書きをしたのは、誰ですか?』
「わたしです。」
『すぐに、消しなさい!』
いい大人が、叱られている。
おえらいさんは、父親の洒落っ気が、理解できないようだ。
「かしこまりました。」
かしこまって返答する父親。
かしこまって、おえらいさんを見送る父親。
しかして、そのトイレの文字は消される事とな・・・る
筈だったのだが、
いつまで経っても、消される事はなかった。
父親は、自分の出世より、けんじろう君の将来を
大切にしたのである。
ありがとう